下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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東の浮遊城

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「早かったな」

「はい、言われたものが早くに揃いましたので。土産は女中に渡しました。これで間違いないですか?」と小さい風呂敷包みを那智に渡し、那智はそれを丁寧に見ている。

「よく見つけたな。あの家で……」

「書庫のことは全てわかっているつもりでしたが、流石に蔵の中までは。かなり探したんですよ?」

「ねえねえ、何持ってきてもらったの?」

「本だ。俺ももうちょっと勉強しようと思ってな」

「那智さんが勉強……」

「変な顔するな。俺達がここにいるあいだは重次もいるから遊んでもらえ」

「すぐに子供扱いするんだから!」

「子供だろう?それより、足の運動してるのか?」

「チョットだけ……」

「ならそれも手伝ってもらえ。俺は冬弥にこの本を見せてくるから……あ、重次の紐も後で貰ってくるから説明しておいてくれ」

「うん」

那智が部屋から出て行ったので、簡単に紐の説明をし、最近起こったことを話しておく。

みんなが起きてきて朝食の時間になるが、中々食事が運ばれてこず、そういえばここに来て何日経ったかと考え指をおり、祖母の誕生日だと気づく。

「お婆ちゃん、お誕生日おめでとう!」

「あらあら、ありがとう。こっちにいると時間の感覚がおかしくなるわよねぇ。私も少し前に思い出したのよ」

「もうそんなに日が経ってたんだね。お正月はどうするの?お祭り行ける?」

「雪翔は気が早いですねぇ。今年は前夜祭から行けますよ。ちゃんとリハビリしてたらですが」

「うっ……するもん。それに毎日四郎さんや三郎さんと運動もしてるし」

「運動ですか?」

まさか戦い方の訓練とは言えず、運動と言ったが、明らかに怪しいと言った目で見られるので、朝ごはんが終わったら滝に来て欲しいと頼む。

「あ、兄上。電気の機械持ってきてあります?」

「重かったよ。でもこれでここでも車椅子の充電ができるからね。裏口において置いたけど、使い方は私にはさっぱりだよ」

「後で行きますから兄上も覚えてくださいよ?」

少し待ってからご飯が運ばれてきて、お膳の上には南特有の焼き魚が置かれていた。

「あ、アジに似たやつだ!重次さんこれ持ってきてたの?」

「干物もあるんですが、生を持ってこいと言われたので焦りました。ここは狐の国の中心だったから何とかなったものの、社を飛んでこれなかったら朝には間に合いませんでした」

「風の一族も社を飛べるの?」

「那智様の札で飛べただけで、我々にはそのような力はありません」

「那智さん凄いんだね」

「今頃かよ。こっちに来ることも少ないし、誕生日にはせっかくみんなが集まるからと爺様の所まで取りに行かせたんだ。叔母上この魚好きだったでしょう?」

「ええ、こちらではなかなか食べられないのよねぇ。ありがとう那智」

「いえ……」

赤くなってる那智を見ながら、みんながいただきますと言ったので、お箸を手に持ち魚を食べる。

「美味しい」

「アジより身が多いな」

「航平ちゃん、初めてだよね?」

「うん。南は一回行ったけど、逃げてきたし」

「あ……」

「夏に連れてってやる。雪翔、お前も泳げるようになっておけよ?」

「無理だよ。バタ足ができないもん。イルカさんに乗せてもらうからいいんだもん」

「イルカ?」

「うん、すっごく賢いんだよ。島にいるおじいさんも優しいし、面白いんだ。夏は行ってもいいでしょ?」と冬弥を見ると、「受験生になること忘れてません?」と現実に引き戻される。
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