下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
64 / 87
星のマーク

.

しおりを挟む
和室に布団が敷かれ、冬弥が横になりながら掻い摘んで話をし、秋彪を祖父の屋敷に送り、医師に見せることにしたと言ってから、眠ってしまったので、今度は「雪翔は平気なのか?」とあちこち触られ、周太郎やみんなが守ってくれたと言ってソファに座る。

撫で撫で撫で撫で撫で撫で撫で……

「お爺ちゃんも、お婆ちゃんもなんで撫でるの?」

「雪翔の力があったから秋彪が戻ったんじゃ。褒めて何が悪い?」

「でも、僕……札のおかげだけとは思えないんだ。あの時冬弥さんが、九堂って男を弱らせてくれたからかもしれないし」

「そうであったとしても、雪翔はよく頑張った。で、那智は何をしておったんじゃ?」

「那智さんは秋彪さんを玲さんと助けたんだよ。二人ともかっこよかったんだから」

話していると、航平が走って入ってきて、いきなり那智に飛びつき、ギュッと抱きついて「心配させるなよ」と少し涙声になっていた。

「大丈夫だ。見てたのか?」

「見てた……部屋でしかできなかったから戻ってきたの見てこっちに来て……スーツ汚れてるじゃんか……」

ガシガシッと航平の頭を撫でた那智が一言「お前も頑張ったな」と航平に声をかけ、涙を拭いた航平は一つうなづいてから、「あの男は西に逃げた」とだけ言った。

「みなさん暖かいお茶をいれたのでどうぞ」

栞がお茶を持ってきてくれたので、それを受け取りゆっくりと飲む。

「で、巻物は?」

「影の中だよ」

「みんながいる内に読み解いたらどうだ?」

「うん、四郎さん手伝って」

四郎と二人でダイニングのテーブルに行き、紙と鉛筆を出してまた解読していく。

「頭に流れてくるのと内容は同じなんだけど、あと一つはどこにあるんだろう。どちらにしてもあの九堂って人からも一つ奪わないといけないんでしょ?」

「それは冬弥が起きてからにしよう。で、暗号は?」

「三つじゃわからないよ」と言って解読を再開し、何度も見直してからまた札作りをする。

「雪翔よ。儂は先に帰って坊主のことを見てくるが、婆さんは置いていくで何かあったらちゃんと言うんじゃよ?」

「お爺ちゃん帰っちゃうの?」

「そう言うな。京弥もおるが、ちと心配での。周太郎と四郎と婆さんは置いていく。夏樹と三郎は帰るが、何かあったらいつでも影を送ってこればいい」

「うん。お爺ちゃん気をつけてね?」

「儂は大丈夫じゃ。弟のことも頼むぞ?」

「うん」

祖父たちが帰り、玲が秋彪の社の祭りの代わりをすると出ていったので、残ったみんなで簡単にご飯を済ませ、今後の話をしようと冬弥が起きるのを待つ。

「ちょっとお風呂入ってきます」

起きた冬弥がお風呂に入ってさっぱりしたところで、航平がその間にやっていた術で日本に男がいないことが分かり、仕方なく明日にでも洞窟に行ってみようということになった。

「秋彪さん大丈夫かな?」

「あちらで回復すると思うんですけど。何かあったら胡蝶さん呼ぶと思いますよ?」

「うん……」

「それより心配なのが玲ですね。無茶しないといいんですけど」

「一応、影に見に行かせてはいるが、かなり怒ってたからな」

「不器用ですねぇ。彼も」

「玲さんが?」

「ええ。昔の仕事の影響と思いますが、裏の仕事してた時期に、感情を殺すことを覚えたのでしょう。最近よく笑いますが、今回は殺気立ってましたからよく我慢したと思いますよ?本当は狐の国に行きたい筈なのに、気が似てるからと秋彪の社の祭りを見ているじゃないですか。気になるでしょうに」

「終わったら行かせてやればいいだろ?」

「玲には洞窟に来てもらいますよ?戦力ですから」

「冬弥さん酷いよ」

「大丈夫。そのあとちゃんと行かせますから。それより、母上。秋彪と玲の社に影を置きたいので貸してもらえます?」

「いいわよ。送っておくわ」

「栞さんは侑弥とお留守番しててください。下宿もありますから。三郎、付いててあげてください」

「分かりました」

「さて、残りで洞窟に行きますが、航平も来てください。翡翠が喜ぶので」

「何でひーちゃん?」

「翡翠はかなり匂いや気配に敏感ですからねぇ。ご機嫌損ねたくないんです。それに、航平の術でいくつかしてもらいたいこともありますから」

「俺のは時間もかかるし、何をすればいいんですか?」

「洞窟まで行ったら、その近くに入口があるんですよね?特定してほしいんです」

「やってみますけど……」

「じゃ、皆さん準備はしておいてくださいね」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

下宿屋 東風荘 4

浅井 ことは
キャラ文芸
下宿屋 東風荘4 ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:.. 大きくなった下宿に総勢20人の高校生と大学生が入ることになり、それを手伝いながら夜間の学校に通うようになった雪翔。 天狐の義父に社狐の継母、叔父の社狐の那智に祖父母の溺愛を受け、どんどん甘やかされていくがついに反抗期____!? ほのぼの美味しいファンタジー。 ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:.. 表紙・挿絵:深月くるみ様 イラストの無断転用は固くお断りさせて頂いております。 ☆マークの話は挿絵入りです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...