下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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「鍾乳洞みたい」

「似てますねぇ」

「冬弥様、上から風が……」

「ええ。どうやら知らぬ内に登っているのでしょうね。微かに外の匂いがしますが、それでも何かの結界内のような感じがします」

「そんなに上り坂って感じしないよ?」

「歩いていてもそう感じます。どう作られているんだか……」

曲がり道を行ったわけでもなく、ただただ真っ直ぐに進んだだけなのに、両側はただの岩肌となっており、特に変わった様子もない。

「どこまで続くのかな?」

「分かりませんが、空気は澄んでいると言った感じでしょうか……」

ゆっくりと周りを調べながら進み、突き当りに出ると今度は上に登るはしごが掛けてあり、上には蓋のようなものが被せてあるのがわかる。

「雪翔、おんぶですおんぶ!」

こればかりは仕方ないので、背負ってもらってはしごを登り、蓋を開けて外に出るとまた岩肌がむき出しになっている通路に出た。

「また進の?どこまで続いてるんだろうね」

「もう秋彪の社からは離れてると思うんですけどねぇ。この先は方向的には冬風神社の方になるんですが……」

「冬弥様、さっきからヒョコヒョコと小さき狐が……」

「あ!翡翠、出てきたらダメだよ」

「やーの!ひーたんもおさんぽ」

「散歩じゃないのに……」

「膝に乗せてあげたらどうです?翡翠が出てくるってことは、危ない事は無いみたいですし」

「そう言えば、ひーちゃんていつも安全な時しか出てこないよね?」

「ひーたん?」

「そう、翡翠はいつもおやつか安全な時しか出てこないって話」

「ちなう、ひーたんはあっちに行くの」

翡翠が指さす方はただの壁で、特になにか仕掛けがあるとも思えない。

「冬弥さん……」

「ただの壁ですよねぇ。進んでいったら壁の裏に行くんでしょうか」

とにかく進んで見ようと周りに気をつけながら進み、曲がり角を見つけたので翡翠の言う方に行く。

「むむー!」

「なに?」

「ここ、くちゃい」

「出ましたねぇ、翡翠の臭いが」

「何ですか?臭いって」

「ひーちゃんは匂いに敏感と言うか……結構この匂いの臭いって表現で何かあったりするんだ」

「そう言えば航平坊ちゃんの時も……」

「そうでしたねぇ。あの後は翡翠のおかげで航平も大事になりませんでしたし」

「ひーちゃん、臭いってどこからか匂いがするの?」

「そ!ここ。くっちゃい!」

翡翠が鼻に手を置き、壁と木の枠の隙間を指さす。

「周太郎、なにか分かります?」

「カラクリにはなっていないようですが」

「壊しちゃいましょうか」

「ほかも壊れない?」

「部分的に破壊します。後ろに下がっててください」

後ろに下がると、冬弥が手の先に気を集めているのがわかり、行きますとの声と共に『ドカッ』と音がしたあとに砂埃が舞う。

「目が痛い……」

「すいません、まだ力のコントロールが難しくって。でも壊れましたよ?」
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