下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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調べ物とペンダント

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「うん。えーっと、あまりにひどいことばかりする狸に、おじいさんは罠を仕掛けて狸を捕まえて、紐で縛り、絶対に紐を解いてはいけないとおばあさんに言ってから畑仕事に行きました。狸はとてもやさしいおばあさんに、もう悪いことはしないからと嘘ばかりを言って紐を解いてもらうことに成功しました。紐を解いてくれたお礼に、秘伝のまんじゅうを作りますと言って狸が疑うおばあさんを説得して、台所に立ち、油断したおばあさんを木の棒で殴って殺し、逃げていきました」

「うわー、おばあさん可愛そう」
「うむ、残酷な物語だな」
「ひーたんも見るー」

「続き兄ちゃん読んでよ」

金と銀が交代して、金が絵本を手に取り、絵をみながら読み始める。

「帰ってきたお爺さんは、お婆さんの姿を見てとても悲しみ、狸を憎みました。そこにウサギがやってきて、『お爺さんどうしたの?』と聞くと、狸にやられたんだとウサギに話して聞かせました。うさぎは敵をとってあげると言って出ていき、狸を誘いました。狸にかやを背負わせることに成功して、後ろをついて歩き、火打石でカチカチと鳴らし、かやに火をつける所に成功しました。火傷をした狸に、よく効く薬があるよ?と唐辛子を練りこんだ薬をベタベタと塗ると、たぬきは痛いよーと悲鳴をあげました」

「なかなかやるではないか!」
「うさちゃんかっこいーねー」
「か、辛は痛いと思いますー」

「たぬきの傷が治った頃、今度は釣りに行こうと狸を誘い、川まで行き、『狸くんは茶色いからそっちの船に乗ってね』とうまく泥の船に乗せることができ、自分は木の船に乗り、なるべく遠くまで漕いでいくようにしていたら、『う、うさぎさん、水が入ってきたよ?』とたぬきが慌てだしたところで、ウサギは棒で船をつつき、狸を溺れさせ殺しました。『おばあさんを殺したバツだよ?』と言って、お爺さんの復讐をウサギは成し遂げました」

「えー、もう終わり?」
「もっともっと!」
「兄ちゃん、狸は死んだの?」
「多分。溺れてただろ?うさぎも助けなかったしさ」

「み、みんな……侑弥は機嫌よくなったけど、その話はちょっと怖くない?」

「そう?ウサギはなかなかの策士だったよ?狸は詰めが甘いよなー」
「そうそう。だいたい狸が悪いんだし、ウサギさんは正義の味方だったんだよ」
「紫狐なら祟りますー」

物騒な話が飛びまくっていたので、まともに読める絵本はないのかと探すが、良く考えると、いつも金たちに読ませるとろくな事がない。

「じゃあ、次は……って寝てるし!眠かっただけかな?」

「絵本がきいたんだよ!」

「う、うん」

「ほかも読んでいい?」

「寝ちゃったから静かに読んでてよ?」と言いつつも、たいてい絵本を見るとツッコミを入れるので、違う部屋で読んでくれと頼む。

侑弥の絵本置き場を見ると、鶴の恩返しや三匹の子豚、ぶんぶく茶釜、舌切り雀、こぶとり爺さんやおむすびころりん、つるとかめに加え、グリム童話までたくさんの絵本が揃っているが、童話の絵本には何故か狸が多い。

その横には動物図鑑に車や恐竜図鑑まで揃っており、英才教育でも始まるのかというほど、赤ちゃんに対してはおもちゃより本の方が多い。

「那智さん、狐と狸って仲悪いの?」

「はぁ?何だよいきなり……別に仲悪くないけど、よく喧嘩はするな」

「え?」

「ほら、BARは中立地帯だろ?あそこで飲んでるとたまに会うんだよ。あいつら口が悪いからついな……」

「会うんだ。仲悪いんだ……」

「那智?喧嘩腰なのは那智と秋彪くらいでしょう?まぁ、邪魔ですけどね?天敵という訳では無いですよ?気が合わないだけです」

「だから狸が悪さする本が多いの?」

「那智が買ってきたんです。それに日本の昔話は狸がたいてい悪さする話が多いですからねぇ」

「そう言えばそうかも。でも、動物の図鑑はいいけど、他は早くない?」

「なんでも早いうちのがいいんだよ。侑弥は人間の国の学校に行くんだから、賢いに越したことはないだろ?」

「叔父バカだよ……」

那智と騒いでいたら、「とにかく、雪翔はちゃんと薬飲んで、明日からリハビリに行ってください」と言われ、それも忘れてた!と言うと額に手を置いた冬弥が「そうだと思いました」と呆れている。

その後、みんなでリビングで喋ったり、ゲームをしたりと一日が過ぎていき、昼間の疲れからかぐっすりと夜眠る。

次の日からはリハビリと学校を再開して、交代で誰かがついてきてくれ、特に変わったことも起きずに半月が過ぎていった。
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