下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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調べ物とペンダント

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裏から厨房に入って、手を洗っていつものように手伝っていると、祖父が侑弥をおんぶして入ってきた。

「冬弥!泣き止まんのじゃが……」

「栞さんが抱っこしたら泣きやみますよ?」

「それでもダメじゃったからきたんだろう?」

そういう祖父は着物におんぶ紐で侑弥をおんぶしており、まだしっかり座ってない首がダランとなっていたので、下ろしてもらって膝の上に乗せて抱っこすると、すぐに泣き止んだ。

「そのおんぶひも早いんじゃない?首がダラーんとしてたよ?」

「狐の子は首が座るのも早いでのぅ。婆さんも大丈夫じゃと言うたからおぶってきたんじゃが」

「赤ちゃんて、心臓の音聞いてると安心するって本に書いてあったよ?お爺ちゃん走ったからびっくりしたんだよ」

「雪翔、どこで覚えたんです?」

「家に置いてあった本読んだだけだよ?それに前弟いたし。今は侑弥が弟だけどねー、侑弥!」

「あー」

「そうそう、兄ちゃんだよ?」

「あー」

「お腹すいたのかな?」

「乳はもうやったと婆さんが言うておったが……」

「オムツかな?」とお尻をモゾッと触ると、暖かい感触がしたので、奥においてあるベビーベッドでオムツを変えて、「スッキリしたねー」と抱っこしながら移動して、祖父に渡す。

「僕がお手伝いするか、お爺ちゃんがお手伝いするか!」

「辞めてくださいよ?父上がしたらとんでもない事になりますから」

「そのうち誰か降りてくるじゃろう?それまでほれ、その奥で遊ばせておく」

仕切りの中に、遊ぶところが作ってあり、そこにおもちゃや揺りかごが置いてあったので、祖父がそこで侑弥を遊ばせ、ご飯を並べて準備ができる頃には、みんな取りに来る前に侑弥を見に行っていた。

「人気ですねぇ」

「人見知りとかないのかな?」

「まだ分からないんじゃないですか?」

「そのうちみんな泣かれたりして」

「ですよねぇ。ほらほら、皆さんご飯食べちゃってくださいよ?侑弥は逃げませんから」

「動物じゃないんだから!」

「愚図ると狼みたいに噛み付いてきますよ?」

「え?」

「例えです」

「ビックリしちゃった。僕、家で食べるね。お爺ちゃん、帰ろう」

「おお、もういいのか?」

「うん、お腹すいちゃった」

「後はやっておくので、栞さんが起きたら無理しないように言っておいてください。それと戻ったら昨日の続きやりますから、紫狐を出しておきます」

「しーちゃん久しぶりに出てこれるんだ」

「ええ、穢れの浄化を手伝うと入ってきて、みんなが元気になった途端体調崩しましたからねぇ。紫狐も頑張り屋さんですから」

「しーちゃんは何するの?」

「雪翔が上に行くので、その補助を頼みます。慣れた狐のがいいと思うので」

「うん」

お婆ちゃんの作ってくれた朝ごはんを食べながら、「しーちゃんまだかなぁ?」とソワソワとしていたら、「ただいまなのですー」とひょっこりと紫狐が窓から入ってきた。

「しーちゃん、もう大丈夫?無理してない?」

「はいー。ゆっくりし過ぎて半纏がパツパツで……あ!」

「もう、何食べてたの?」

「えへへー。大活躍の紫狐を見せられなくて残念ですー」

「雪翔、早く食べちゃいなさい」

「うん、しーちゃんちょっと待ってね」

そういうが早いか、翡翠がぴょんと出てきて、紫狐に甘えに行っているので、久しぶりだしいいかとご飯を食べてしまう。

「雪翔君とずっと一緒だったものね。寂しかったんじゃない?」

「栞さん!そんな事ない……ことも無いかな」

「みんなが揃うまで遊んでていいわよ?」

「部屋に行ってていい?」

「勿論」

「紫狐が押しますー」と車椅子を押してくれ、部屋でみんなを出して、檪を紹介する。

「お、大きい……」

「話は聞いておる……いや、聞いてる」

「宜しくなのですー」

「まだ練習中?」

「何をですか?」

「檪の言葉が硬いから普通に話して欲しくてね、何でか金たちが教えてるんだけど……」

「そうだったのですかー。リラックスですよー」
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