下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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調べ物とペンダント

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「聞こえてますよ。周太郎、運ぶの手伝ってもらえます?暫く分買い込んできましたから」

みんなが玄関から荷物を運び終えた所で、航平が大学からそのまま来たと家に来て、那智に何故か文句を言われている。

「ねえ、冬弥さん。那智さん達のコミュニケーションて喧嘩なのかな?」

「雪翔にはそう見えます?あれであの二人は仲いいですよ?」

「そうなの?」

「那智は不器用ですからねぇ。それより、今夜の夕餉は何にしましょうかねぇ」

「僕シチューがいいな」

「白菜がありますから、かさ増ししましょうかねぇ。人数も多いですし」

「どのくらい使うの?」

「半分使います。白菜は切るので、お鍋二つ出してください。量もいりますから」

下から大きな梅坪のような鍋を二つだし、計量カップで水を少し少なめに入れて、具を全て中にいれて煮込む。

「人参に火が通ったら白菜入れてくださいね。混ぜれます?」

「うん。手をついてたら立ってられるし平気だよ」

「じゃあ任せます。私はこっちを仕上げますから」

何を作ってるんだろうと見ると、トンカツにエビフライをあげ始めている。

「御馳走だね」

「栞さんと侑弥がうちに帰って来たお祝いですからねぇ。それに、あの三人はもうソワソワとしてますよ?」

「もうお皿出してるし……」

「こちらの料理はあちらではないものが多いですから。たまにはいいんじゃないですか?」

「うん。牛乳入れたら出来上がりだけど、もう火止めてもいい?」

「ええ。後は三郎にやらせますから、座っててください」

「僕、航平ちゃんと椅子出してくる」

みんなで揃っていただきますとお箸を持つと、また三人は「肉の周りがサクッとしてます」「牛の乳でこのような汁が……」「中に鳥の肉が入ってますよ?」等とぎこちなくスプーンを使っている。

「周太郎さん、これね、小麦粉と牛乳でも出来るんだよ?」

「やはり牛の乳で出来るのですか。ヤギではいけないのでしょうか?」

「ヤギは僕はわからないけど、炒める時にね、小麦粉を少しずつまぶして炒めてから牛乳入れてトロッとするまで煮込むんだよ。ローリエって葉を入れると良いんだけど」

「葉っぱですか?」

「うん。でも、あっちの台所にもルーがあったからできると思うんだけどなぁ」

「私達はやはり和食が多いのよねぇ。雪翔達が来た時のお楽しみくらいでいいわ」

「そうじゃの。使用人達も楽しみにしておるし。中には航平のファンもおるぞ?」

「は?」

「私も聞きました。お湯をもらいに行ったら、航平君の噂がチラホラと」

「航平はやらんぞ?」

「なんでそんな話になるんだよっ!だから俺に彼女ができないんだって」

「那智さんの妨害?」

「失礼だな。子を守ってるだけだ。あんな臭いのきつい女共はダメだ!」

「香水のことかな?」

「それ。何だかそれだけはしつこくてさ……」

「昔那智は香の臭いで大変なことになりましたからねぇ。雰囲気も言葉遣いも違うものになりかわってましたし。トラウマですか?」

「違う。お前もそうだろう?俺たちは鼻が効くから、あの匂いは好きじゃないんだよ」

それだけじゃない気がするが、航平とまぁいいかとシチューをおかわりし、パンを最後に浸して食べる。

「ご馳走様。栞さん、侑弥のミルクは何時?」

「そろそろだけど?」

「僕あげたい!」

「じゃあ、作ってあげてくれる?」

「あら、だったら那智の次は航平ちゃんがあげたら?」

「那智さんミルクあげたんだ……」

「………………」

「違うよ?オムツ替えたの」

「雪翔、バラすな!」

「良いじゃん。悪いことしてないんだから」

ミルクの缶を見ながら航平が哺乳瓶に作り、人肌まで冷ましてから抱っこしてミルクをあげる様は手馴れているとしか言いようがなかった。

「慣れてる?」

「前にいた弟とか俺が面倒見てたから、オムツ替えとかゲップとか普通にさせてたけど?」

「あら、那智より立派ねぇ」

「叔母上!」

「ほほほ。那智の負けねぇ」

「こ、今度はちゃんと出来ますから」

「負けん気だけは一人前じゃの。婆さん、お茶をくれんか」

「はいはい」
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