下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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天からの使い

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その後宴会の続く部屋を通り越し、玄関へと向かうと、広い玄関にはたくさんの祝の品が届いており、厨房でまだジュースが残っているか聞いて、一缶ずつもらって庭に出る。

「雪翔、おかえり」

そう言われて乾杯し、昔と同じようにぼーっと二人でしながらジュースを飲んで日向ぼっこをしてウトウトとする。

「こりゃ、お前達何をしておる」

「ん?あれ?お爺ちゃん?」

「若いのにぼーっとして、悩み事か?」

「違うよ?遊んでたの」

「何もしておらんかったではないか」

「昔から航平ちゃんとぼーっとしてるのが好きだったんだ」

「それだけか?」

「そうだよ?」

「全く、のんびりしておるのぅ。それより、昴がそろそろ帰るそうじゃ」

「じゃあお見送りしなきゃ」

「もうそろそろ玄関に来るからそこから回ってきなさい」

「はーい」

玄関で、「またな」と言われたので、また来ますと言って手を振る。

「お爺ちゃん、みんなまだ料理運んでるけど……」

「あぁ、秋彪と玲がよう食べる。それに珍しく那智も食うておるからの、すぐに無くなるんじゃ」

「やっぱり心配させちゃったからだよね」

「それは否定はせんが、無事だったんじゃからいいではないか。それに侑弥も生まれた。みんな緊張の糸が解けたのじゃろう。暫くはこのままで良い良い」

「うん」

「それよりお前達遊んでおったと言っておったが、『てすと』はいいのか?」

「あぁぁぁ、こ、航平ちゃーん」

「はいはい。すいません、少し勉強見てきます」

「すまんの。航平も疲れたらみんなの所で飲むといい」

「だから未成年なの!」

プンプンとしながら部屋に行き、封筒の中身を見ると休んでいた分のコピーが入っていた。

それと教科書などを照らし合わせて、習っていないところを集中的にやる。

「雪翔は三年までのテキスト終わってるんだろ?」

「うん」

「だったらある程度わかるんじゃないのか?」

「理屈はね?でも教えて貰った方が頭に入りやすいの。覚えなきゃいけないのは何とかなるんだけど、数式見ると慌てちゃうんだ……」

「大学決めたのか?」

「学部のこと?」

「そう」

「もう迷ってる暇ないんだけどね、まだ僕歩けないし、あと四年で歩けるかもわからないから、法学部にしようと思うんだ。えっとね、社会福祉主事ってのが取れるみたいで、証明書とかないみたいなんだけど、福祉のこととか障害のこととか勉強できるし、今の僕なら役に立てないかなって思って」

「あれ、34科目中3科目取ればいいんだっけ?」

「そんなようなことは書いてあったけど、医学から看護や経済まで幅広く勉強できるから」

「そっか。雪翔がそう決めたんなら頑張れ!俺は応援する」

「ありがと!航平ちゃん」

「あと一年ないぞ?偏差値も高い……あ、お前推薦じゃないか?」

「わかんないよ。定時からだから……普通に受けなきゃいけないならもっと頑張らないといけないし」

「帰ったら資料もらってこいよ。隆弘さんと見てやるから」

「うん」

夕方まで勉強してから、宴会場まで行くと、みんなの狐も出てきて、お酌したり踊ったりとお祭り騒ぎがまだ続いていた。

「ねえ、寝てるの?」

近くにいた玲に聞くと、みんな適当に飲んで寝てると返ってきたが、起きたらまた飲むんだ!と匂いがすごいので障子を開けて空気の入れ替えをする。

「ゆ・き・と・くぅーん」と聞きなれた声がしたので避け、ジイジ飲み過ぎ!と言うと、バアバも酔って寝てるという。

「いいのかな?」

「俺、ここにいちゃいけない気がするんだけど」

「僕もそう思う……」

とにかくお腹がすいたからと、結局台所まで行って、お膳で用意してもらうことにした。

「坊ちゃん方お揃いで。祝には行かれないのですか?」と女中頭に聞かれるが、あの雰囲気とお酒の匂いで酔いそうだからと言って、ご飯を食べ、さっさとお風呂に入る。

「こうへーーーー!なんで戻ってこねーんだ!」

「那智さん!だってあの部屋くさいですって!那智さんも酒くっさ!」

「祝だからいいんだよ!ほら、お前達こい」

せっかくお風呂に入ったのにと宴会場まで連れていかれ、なぜだかみんなのお酌をさせられる。

かなり遅い時間に、冬弥が「薬飲んでます?」と言いに来たので、航平と後ろに隠れて「もう部屋に戻りたいよ……」とおねだりすると、撫で撫でとされこっそりと部屋に戻してくれた。
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