下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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天からの使い

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丸一日眠っていたようで、その間も蘭は帰らずにそばにいてくれ、何匹かの狐に囲まれてしまっていた。

「あ、あの……」

「寝ておれ。この者達は治癒の上手いものばかり。大奥様のお狐様だけでは疲れてしまうからと、妾の狐も手伝わせてもろうたのじゃ」

「何から何まですいません」

「妾も一月と聞いて驚いた。そなたは一日や二日と言うし。この後皆が話を聞きたいと言うておったが、まずは食事じゃな」

一匹の狐が誰かを呼びに行き、その後すぐに食事が用意される。

魚に、お味噌汁。ご飯は柔らかめで、糠漬けもちゃんとある。

パクっときゅうりを口に入れたら、すぐに家の糠漬けと分かり、泣いちゃいけないと分かっていても、一月もいなかったんだと思うと、心配をかけただろうとか、いろんな思いが出てきて、美味しいご飯が、涙でしょっぱくなってしまった。

それでも全部食べて、ご馳走様というと「冬弥殿がそなたが寝てすぐに家に取りに行くと出ていってしもうて……持って帰ってきたのが、薬と糠漬けには妾も笑うしかなかった。良い父をもったな」

「はい」

膳を下げに来たのが三郎で、バタバタと走っていったかと思ったら、また多数の足音が聞こえる。

「気分は悪くないですか?」
「痛いところはないか?」
「松竹梅は役に立てたか?」
「どこに行ってたんだよ!」

みんなが一斉に言うので、どれから答えていいのか分からず、ぼーっとしていたら、那智が慌てだして「い、医者を呼べ!」と叫んでいる。

止めたのはもちろん祖母だったが、どこからどう連絡が入ったのか、南の国から那智の両親に栞の両親。昴に胡蝶までやって来て、いつの間にか周りを囲まれてしまった。

「えっと……」

「雪ちゃん、バアバたちがどれだけ心配したことか!ねえ、奥様!」と栞の両親と頷きあい、その横では昴達天狐も探してくれていたと言う。

「心配させてごめんなさい……」

「悪いのはあの変態男ですから!変なことされませんでしたか?」

「うん。話し方が気持ち悪かったけど……蛇みたいで」

「あんなのに寄ったら行けません!」

「まずは話を聞こう」と昴が言ってくれたので、そこらじゅう撫で回されていた手から解放されて少しホッとする。

得に頭は……

「えっと、僕が門を締めに行ったでしょ?その後、吸い込まれて真っ白な部屋って言うか、空間に居たんだ。みんなが調べてくれてて、どこか壁の薄いところがないか探して、天井に血で覚えてた術を書いて、それをみんなで壊して出たの。その間に一度、水とパンが人数分置かれてて……出た時に、松竹梅が二本ずつお水を持っていてくれたから、休憩のたびに飲んだけど。で、社に頼ったら帰れるかなって思って探して行ったんだけど、あのおじさんがいて、その後蘭さんの社について、お願いして連れてきてもらったの」

その後男から聞いた本の話をし、その本は城にあるかもしれないとの事で、探してくれるという。

「妾の社で良かった。皆が皆協力的とは限らぬゆえ。それと別で文弥殿の事を知っておったのが幸いであった。ご子息の名と天狐の話は聞いておったから……」とチラッと胡蝶を見る。

「蘭、粗相はなかったであろうな?」

「もちろんですとも母上」

「姉と呼べと言うておろうが!」

「ほれ、母娘喧嘩はあとにしてくれんか。何にせよこれも縁よのぅ」
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