下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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白い空間

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そのまましばらく待っていると、金たちではなく、直接祖父が迎えに来てくれた。

「雪翔!使いが来てお前がいなくなったと……どうやってここに……」

「妾がお連れした。お久しゅうございます文弥殿」

「お主、蘭か?」

「はい」

「こりゃまた別嬪になったものよのう。胡蝶に似なくて良かったわい。で、何があったのか聞かせてくれんか。蘭も家に来てもらえるかの?」

「宜しいんですか?」

「勿論じゃ。ここから家は遠い。社を飛ぶとしよう」

祖父に連れられいつもの社に出たところで、祖母と風の一族であろう黒装束の人がいた。

「待たせたかの。これが一族の頭目じゃ」

「お初にお目にかかります。この度は三郎と四郎がついていながらの失態。如何程にでもお咎めをお受けいたす所存」

「ま、待って。三郎さんたちは悪くないんだ。だから怒らないであげて。僕が悪いの……僕が……」

「ほれほれ、泣くでない。さ、家に帰ろう」

そのまま泣きながら家に帰り、周太郎に心配したと抱きつかれわんわんと子供のように泣いてしまったが、落ち着くまでみんなが待っていてくれた。

「そうじゃ、前の残りでオレンジのジュースがある。周太郎持ってきてやってくれんか」

広間で脚を伸ばして、壁にもたれかかっていると、祖父と蘭がまず話をと二人でしていた。

そのままウトウトとしてしまったが、起きてないととジュースを飲みながら、近くにいてくれた祖母に金と銀のことを聞く。

「あの子達はお使いに行ってもらってるのよ?冬弥に知らせに岩戸を潜って行ったの。すぐに冬弥も来るからね」

「あのねお婆ちゃん。みんな悪くないんだよ?」

「何かあったのでしょう?冬弥達にも出来なかった何か」

「うん。玲さんが狐ちゃんを渡してくれて、那智さんが車椅子投げて、それで僕、変なところに連れていかれて。あ、玲さんの狐ちゃん出してもいい?まだ小さいんだ!お腹すかせてるかもしれない」

「一度私が見ましょうか。よいしょ」っと言って影に手を突っ込んだと思ったら、ポイポイっと三匹と翡翠を出してしまった。

「あら可愛らしい。三つ子ね?怖がらなくていいのよ?お腹すいてない?怪我は……ないようね。お名前は?」

「僕は竹、右が兄の松で、左が妹の梅」

「そう。頑張ったのね、やはり雪翔の中だと気が少なかったかしら?お婆ちゃんの中に入りなさい。そしたら回復も早いわ」と強引に影に押し込んでしまった。

「お婆ちゃん……強引」

「ほほほ、あらそう?でも、無理にでも入れないとあの子達疲れてるみたいだったから。中には花ちゃんもいるから平気よ?」

「そうだけど。ねえ、僕どのくらい居なくなってたの?一日とか二日位?」

「え?」とみんなが振り返り、ご飯はどうしていた、夜は眠れていたのか、薬は飲んでいたのか等、散々聞かれたので、お水飲んで、蘭にご飯を貰ったことを話、事情を祖父から聞いたのだろう蘭が、祖父になにか謝っていた。

「婆さん、冬弥はまだか?」

「すぐにくると思うんですけどねぇ。それよりお風呂の支度をしてきます。服もたしかあったわね」と使用人みんなに指示を出し、風呂に入れられ、周太郎に嫌という程洗われ、ジャージが置いてあったので、それに着替えさせられ、広間に敷かれた布団に寝かされる。

「僕病気じゃないよ?」

「良いから横になっておれ。雪翔が居なくなって一月じゃ!一日や二日ならばこんな騒ぎにはならん。それを飯は食うておらぬわ、寝てもないとは……すぐ体に影響もでるじゃろう。横になってなさい」

それでも眠くないからと、枕を背もたれにして身体だけ起こし、用意されたおかゆを食べる。

その横で翡翠はいちごの牛乳を飲んでぐっすりと眠っていた。

ガラッと音がしたので、誰かきたのだろうと待っていたら、複数の足音と共に、冬弥と栞、玲、那智、秋彪。三郎と四郎に航平まで全員が揃っていた。

「雪翔!」

冬弥に抱きつかれ、横では栞が大きなお腹を抱えながら泣いていて、那智たちまで涙ぐんでいたのを見て、本当に一月いなかったんだと感じた瞬間だった。

「冬弥さん、ただいま」

「雪翔、おかえり」

珍しく涙ぐんでいる冬弥を退け、那智や玲に秋彪までもが抱きついてきて、正直暑かったが気が抜けていつの間にか眠ってしまっていた。
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