下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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白い空間

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翡翠がポンと出てきて膝の上に乗り、「ひーたんおうちに帰る……」とシュンとし始め、背中を撫でながら、帰れるからもう少し我慢しようねと先に進む。

小さな街が見えてきたが、お金も持っておらず、何も買うことが出来ないので水だけのみ、みんなが疲れていないかどうかを聞いて、白や黒に頼んで狐のいる社を探してもらう。

公園で待っていると、戻ってきた二人が「ありました!」と興奮気味で言ってきたので、きっとお狐様のいる社なのだろう。

「お狐様いた?」

「はい。良い気を出しておりましたので安心かと」

すぐに行こうと、姿を消してもらってその社の近くまで飛び、鳥居の前で下ろしてもらう。

「大きい……」

何処にいるのだろうと境内を探し、屋根の上も見たが狐の姿は見えない。

観光客らしき人も来ていたので、大きな声で呼ぶことも出来ず、隅で人気がなくなるのを待ち、本殿の前で声を掛ける。

「お主は誰じゃ?」と後から声がしたので振り向くと、綺麗な着物を着た女性が立っていて、良く見ると薄らと耳としっぽが見える。

「お、お狐様ですか?」

「妾が見えておるのか。耳も尾もかなり限界まで消したというのに」

「初めまして。僕、早乙女雪翔と言います」

「その後におる者達は?」

「僕の狐と、護法童子です」

「あのいやらしい男の仲間かえ?」

「いやらしい?」

「そうじゃ。いちいち蛇みたいな目で見てくる男は知らぬのか?仲間と思うたが」

「違います。あの人に僕、連れ出されて、家に帰りたいんですけど、ここがどこかも分からなくて」

「して、何故妾の社へ来た?」

「助けてもらおうと思って……お狐様ならば、社と社が繋げると思ったので」

「ほう?なぜそのようなことを知っておる?」

「僕、天狐の冬弥の息子です!お願い、助けて……」

何故かその人はわかってくれると思ったからか、帰りたいと言う気持ちが先走ったのか、つい涙が溢れてきてしまう。

「ま、待たぬか。そのように泣かれては妾が虐めたみたいではないか。雪翔と申したな?そなた腹はすいておらぬか?今一度事情が聞きたい。妾の住処まで来てもらうが良いな?」

「はい……」

白たちも落ち着いており、大丈夫と言い聞かせて女性について行く。

社の裏の岩戸が開き、その中は平安時代を思わせる作りの家が建ち、狐達が姫さまおかえりなさいませと忙しなく働いている。

「この者に茶と食事を。そうじゃな、狐が……六じゃな。その分も。護法童子はどのようにしたら良いのかわからぬが……」

「みんなを出していいんですか?」

「構わぬ。ただしこの部屋のみじゃ。そなたの気がかなり弱っておるゆえ、少し落ち着くことが必要じゃ。その狐らにも影響が出るからねぇ」

「ありがとうございます」

「さて、茶を飲みながらでよい。話を聞かせてはくれぬか?」

すぐに食事もお茶も来て、食べながらで良いとの言葉に甘えて、今までのことをかいつまんで説明する。

祖父のことに触れると「ふ、文弥殿の孫じゃと!?」と思いっきり驚かれたが、嘘ではないのか確認がしたいと言われ承諾する。
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