下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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白い空間

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砂利の上を進み、社全体が見える真ん中で止まり、社や社務所などを見るが、人の気配は無い。

賽銭箱の奥でなにか動いたと、黒がすぐに見に行くが、あと数歩というところで止まってしまう。

「どうしたの?」

「白!」

黒が叫んだと同時に、白が車椅子ごと持ち上げて上に飛び、そのまま空中で停止するので、何があるの?と聞くが、仮面を外して人の姿になっている白の顔は眉間にシワがより、少し怖く見えた。

「白?」

「奴がいます」

「え?」

「黒の所に結界があるのでしょう。このまま逃げた方がいいのでは?」

「黒のところで下ろして……」

「ですが、我らでは太刀打ち出来ません」

「僕は争いたいんじゃないもん。話がしたいんだ!みんなを巻き込んで怪我までさせたんだよ?謝ってもらうから……絶対に!」

「分かりました。ですが、無理だと判断した場合は逃げます」

「うん、それでいいよ」

白に降ろしてもらって、じっと奥を見る。

「よくここまで来ましたね」

出てきたのはスーツを着た男一人。

本体なのかそう出ないのかは見ただけでは分からない。

「ここってどこ?」

「何処でしょう?」

「どうしてみんなを傷つけたの?」

「どうしてでしょう?」

「僕に何させたいの?」

「少し話をしましょうか。私は昔の陰陽師。それも名の知られてはいない術師の子孫に当たります。ですが、君は正当な本家の血が時を超えて流れている。身体のどこかに印があるはずです。昔は星読みや占術などを生業としていましたが、本家では裏稼業もしていたと聞きます。私はどうしてもそのことを記述してある本が欲しかった。そしてやっと探し当てたと思った本は、本家の血を引くものでしか開けられない様に、呪が掛けられていました。なのでその血筋を探してた所、偶然君を見つけたんです。すぐにわかりました。そしたら社狐の子供になってるじゃないですか!目を疑いましたよ?何も知らなさそうな君を操ってるのかとさえ思いましたから」

「だからみんなを怪我させたの?」

「いえ、意見の食い違いですよ?それにその書物は一説によると五冊あるんです。そのうちの一冊が狐の国。もう一冊が君のお義父さんが持ってます。その本と一緒に君が必要なんですよ。だから私のところに来て一緒に読み解き、邪魔なあやかし共はこの際一掃しませんか?」

「しない!」

「まぁ、今回は君の力を垣間見れたので良しとしましょうか。あの空間から出るなんて、普通のものにはできませんからね。でも、嫌でもまた私に会いたいと思うようになります。その本の一冊は私が持ってますから。それに君は術についてもまだ何も知らない。知りたいと思う時が来ます。それまでは影から見守ってますね」

最後に気持ち悪く笑いながら、また唇を舌で舐めてニンマリ笑っている姿は二度と見たくないと思い、そのまま男から背を向ける。

「白、黒、帰ろ!」

「あぁ、結界は解いておきます。帰り方は教えなくてもできますか?」

その言葉に何かあると思いながらも、もう話はしたくないと、鳥居から出て階段を降りてもらうと細いが道路に出た。
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