下宿屋 東風荘 6

浅井 ことは

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白い空間

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「雪ー、血。ひーたん治す」

「あ、ありがとう」

軽い傷なので、翡翠がそっと手を触れただけで治り、帰ったらみんなでフルーツパーティしようねと元気づけ、白にこの辺りに社がないか見てきてほしいと頼む。

「金、後ろのネットにタオルがあると思うんだけど取ってくれる?」

「これ?」

「うん」

よいしょっと車椅子から降りて川の水で顔を洗う。

「さっぱりした!でも、夜にあんなこと起こったのに外明るいね。今何時なんだろう?」

携帯も何も持っていなかったので、時間が全くわからない。それに、眠気もなく夜通し起きていた感じもしない。

「ひーたんも……」

「あ!」

待ってと言う間もなく、翡翠が川で手と足をつけて上手に顔を洗っているが、小さいのでお腹もベタベタになっている。

「もう、タオルこれしかないんだから。拭いてあげるからおいで」

いつもは拭かせてくれないのに、文句も言わずに拭かせてくれ、乾かす術を知らないので、あとは自然に乾くのを待ってと言う。

「ときときない?」

「ときとき?あ、櫛?ごめんね、帰ったら綺麗にしてあげるからね」

珍しく素直な翡翠を撫で、戻って来た白にどうだった?と聞く。

「ここは上からみると山の真ん中。頂上ではありません。この川を下っていくと小さな街に出ますが、冬弥様達の社の気配もないので、かなり遠くに来ていると思いますが、一つ社を見つけました」

「どんな社?お狐様いた?」

「そこまでは確認出来てませんが、栞様の社より少し大きく、家が建っていたので、宮司がいるかもしれません」

「とにかくそこまで行くしかないよね。みんなを影に戻して、白達は姿消せるでしょ?その近くまで僕を運べないかな?」

「出来ます。すぐに着くので、車椅子は黒に。雪は移動中は目を瞑っていてください」

「うん、分かった」

すぐに抱えられ、フワッと浮いた感じがしたと思ったら、ものすごい風が吹き抜けたので、目を瞑りたくなくても瞑ってしまうよと、降ろしてもらってから白に言う。

「人目を避けたかったので」

「この道を行けばいいんだよね?」

「はい、神社に続いてますが、油断だけはしませんよう……」

「わかってる」

白と黒が人の姿になり、車椅子を押して進んでくれる。
やはり黒の方が周りに気を配り、少し後ろを歩きながら守ってくれるのだが、来たことの無いところという事もあり、黒から放たれるピリピリとした空気に首の後ろにある痣が少し熱くなる。

「黒、もう少し落ち着いてくれない?なんか、痣が痛くって」

「申し訳ない……だが、もう社の結界内に入っていても良いというのに、何も感じない……」

「でも、凄く空気はいい感じがするよ?」

「見えました。社です」

「僕からも見えるけど、ちょっと変な感じしない?みんなの社とちょっと違うような感じ」

「そう……ですね。行くのやめますか?」

「ここまで来たんだから行こう!それと、もしあの変なおじさんが居ても、僕話がしたいんだ。どうしてこんなことするのかとか、聞きたいこと沢山ある」

「分かりました。黒」

「先に入るので、雪達はその後に。あまり離れないように」

「了解した」
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