下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

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「はい、傷の治りもいいですし、もうリハビリに入っていいでしょう」

お医者さんの許可が降りて薬ももらい、帰ってから荷物をまとめる。

「いいですか?ぜーーーーったいに、逃げるんですよ?」

「俺の親父は妖怪か?」

「みたいなものです!」

「否定出来ない自分が悔しい……」

「そんなに怖い人なの?お爺ちゃんの弟だから、お爺さんだよね?」

「お爺なんて言ったら殴られますよ?」

「え?やだ……」

「うちの母もまぁ、逃げろ……」

「僕、船だけ乗ったら帰ろうかな……」

「連絡は?」

「する訳ないだろう?」

「ですが、多分着いたら気づかれますよねぇ?」

「だろうが、まずは使いを寄越すだろう?うちの兄も今はいないしな……」

「お兄さんお仕事?」

「兄は文官なんだが、今北に行ってるはずだ。人手がどうのと手紙にあったから……」

「相変わらずのブラコン……」

「阿呆か!」

「那智の事溺愛してますからねぇ。雪翔、お兄さんの方は逃げなくていいですよ?」

「那智さんの家族って……」

「皆まで言うな!必要なものだけ持てよ?あちらにも用意はしてある」

「まさか……」

「本家が部屋を作っているのに分家が作らないわけないだろう?ここと似た作りにしてあるし、ベッドも作った。服もこちらからもう送ってあるから、本来はカバン一つでいいくらいだ」

結局小さなカバンに、巻物の写しとそれに関係するこちらの読み物。一日分の着替えだけ入れて、肩下げの鞄とお財布を持って行くことになった。

「薬は入れた?絆創膏と、ハンカチとティッシュは?」

「あるよ?」

「あ、後小分けのポーチも持った?もう入れてある?」

「栞さん、心配しすぎですよ?」

「でも……」

「大丈夫だ。本家の者に傷一つつけずに返すと約束しよう。分家とはそう言うものだ」

「那智様、雪翔君をよろしくお願いします。雪翔君、ちゃんとご挨拶してね?具合が悪くなったらちゃんと言うのよ?」

「栞もなかなかに過保護だな……いい加減雪翔って呼べ」

「もう癖で……」

「大丈夫だよ?僕もう16歳だよ?ちゃんと出来るから!」

「では社までまず飛びます」

「待って、あ、歩いていきましょう!」

「だから、過保護だって……」

「那智さん待って」と、那智に耳打ちするとにやっと笑う。

「冬弥、いい加減飛んでくれ」

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