下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

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陰陽の守り神

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戻って欲しくても中々戻ってくれないので、「戻れ!」ときつく言うとピタッと止まりすぅっと影に戻る。

「命令しないといけないのかな?部屋がめちゃくちゃだよ」

紫狐に拾ってもらい本棚に本を戻し、借りてきたものは今日見て明日賢司に返そうと、リビングに行ってDVDを見る。

「キシャッ?」

「何?」

テレビの周りをぐるぐる周り、式神が戦ってるシーンをじっと二匹が見ている。

TVでは黒龍、白龍と呼ばれていたが、その声に反応しているので、その名前がいいのか聞くと、ギザギザの歯を見せて笑ってるようにも見える。

「白いのおいで」
と手を出すと素直に来たので、「白龍」と呼ぶと喜んでくるくると回る。

「黒いのもおいで。お前は黒龍がいいの?」

キシャッと言って口から小さな炎を出す。

「危ないってば。だったら、これから名前は黒龍と白龍だね。僕は雪翔って言うんだ。しーちゃんは紫狐。後金と銀、赤ちゃん狐の翡翠だよ。仲良くしてね」

シャーと言いながら皆の周りを回っているので、仲良くしてくれるだろうと、あとはいくつかの決め事をする。

「__いい?今話した約束は必ず守って」

「あー!」

「翡翠いい子だね」

「キシャッ、キシャ……」

「分かってくれたらいいんだ。みんなにナイショだよ?」

「紫狐も内緒にします!」

「うん。じゃあ、ご飯の手伝いに行こうか」

厨房に行くと、海都が魚を捌いており、なかなか上手く三枚に下ろして刺身にしている。

「海都君すごい。盛り付けも綺麗だし」

「この位はじいちゃんに教わったからできるけど、味付けは無理!切る専門」

「そうなの?」

「船の上じゃ大体生だからさ、捌くのだけ上手くなるんだよ」

「エビはどうします?」

身の殻だけ取ろうかなぁ?でも出汁が……と悩んでいて、結局みんなで剥いてもらおうと鍋にも綺麗に並べている。

「こっちがチゲ鍋で、こっちがあっさりと醤油にしてみた!母ちゃんの真似だけど」

「味付け出来てるよね?」

「これだけはね。煮付けとか無理だから」

それにしても……と椎茸や人参を飾り切りしていた冬弥が「人は見かけによりませんねぇ」と微妙な褒め言葉を残している。

「栞さん、コンロ出してください、コンロ!」

「はい。ご飯も炊けてますけど」

「早いですけどみんな呼びます?」

「うん、俺呼んでくる!火付けてね」

「本当に食べ物にだけはこだわると言うか……でも中々筋はいいです。将来料理人とかいいんじゃないですか?」

「みんな大学行く子ばかりだから料理人にはならないんじゃ……」

「分かりませんよ?国立でた理系の子が酒屋さんだったりしますからねぇ」

「それ勿体ないかも」

「商店街の酒屋さんの息子さんですよ?」

「えー?そうなの?」

「なんでも、御主人が体を壊してから会社を辞めて帰ってきたと言ってました。息子さんは副業もしてるとか言ってましたが、そちらも成功されてるようですよ?」

「だって、見た感じスポーツマンみたいだったのに!僕、何かスポーツしてるのかと思ったもん」

「見た目で判断できないということですね。それより、みんな大人しいですねぇ」

「名前決めたんだ」

「あぁ、それで!」

「なんで?」

「名前と言うのは縛りがあるんです。なので知らない相手。妖に本当の名を名乗ってはいけません。雪翔なら、紫狐の呼ぶゆっきーや、金たちの呼ぶ雪では縛られません。本当の名が雪翔なので。一番効果があるのがフルネームです。なのでおかしいと思ったら、名乗らないことです。で、何て名前にしたんです?」

「黒龍と白龍だよ」

「強そうな名前ね」

「賢司さんに借りたアニメ見てたらそれがいいって言うんだもん。それまで大変だったんだよ?本棚はめちゃくちゃにするし、破ろうとするし……」

「もしかして、名前を決めてから何かしましたか?」

「約束事は作ったよ?みんなで守ろうねって」

「それの効果でしょうね。主の命には逆らいませんから」

「知らなかった……でも、例えば人前には出ないとかそんな約束だよ?」

「それでもですよ。皆さん降りてきましたね、また後で話しましょう」
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