下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

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七泊八日

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気を取り直して祭りを楽しんでいると、周太郎が上を見てと言うので顔を上げる。

「あれが朧車?ほんとに飛んでるよ……」

「かなり大きいです。多分上から神輿を見ているのだと思いますよ」

「へぇ……。あ!狸だ!煎餅やさん?」

「名物ですよ?たまにこちらにも入ってきますが、なかなか手に入らないので高価ではありますが」

「あっちは?河童……かな?きゅうり売ってるけど」

「漬物串です。他の地域の妖達は、毎年だいたい同じ場所に店を出してます」

「お婆ちゃん」と栞の祖母の方を呼んで、着物かけてある!と指をさすと、「あれは着物と言うよりも浴衣ね」と教えられ、よく見ると背中に『祭り』と書かれていた。人間界で言うところのTシャツのような感じで売っているのだろう。

「さて、帰るとするか。この先ついて行ってももう露店もなくなるしのう」

屋敷まで歩きながら栞の家で一旦別れ、家路につく。

「雪翔お風呂どうする?」

「眠くなってきたからいいかな」

「そうか?なら寝る前に金魚だけでも水瓶に入れてやろう」

「うん」

水瓶と言われたので陶器だと思っていたら、ちゃんとしたガラスで中には三匹小さい金魚が泳いでいた。

「金魚いたんだ」

「これは去年のじゃ。あまり大きくならんくての、ほれ、仲間が増えたぞ」と大量の金魚を中に入れている。

「ねえ、もしかして入れすぎなんじゃない?」

「そうなのか?ちょっと待っておれ。たしかもう一つあったはずじゃ」

押し入れを漁って出てきたのは、少し小ぶりの金魚鉢。洗ってからドボドボっと豪快に半分近く移し替えると、最初の水槽の金魚は隙間ができたからか、のんびりと泳ぎ始めている。

「やはり窮屈だったのかのぉ。もう一つ買ってきて均等に分けるとするか」

「そしたら金魚も大きくなるよきっと!」

翌日は最終日ということもあって、祖父と周太郎とバッテリーの回収のついでに金魚鉢を見に行くことにした。

「結構あるんだね」

売っている所は陶器屋だったが、ガラスの上に少し柄の入っているものもあり、赤い色の鉢を買ってからバッテリーを回収しに行き、そのままお蕎麦屋さんでご飯を食べる。

「周太郎さんと三郎さん達は?」

「外で見張りながら食うておるよ。あの一族はあまり人と関わりを持たんのじゃが、雪翔にはよく馴染んでおるようじゃの」

「冬弥さんと栞さんが帰って、やっと退院してみんなで居られるようになったのに、また一人になった気がして少し寂しくて……外も出れなかったし。それで無理言って話に付き合ってもらったんだ」

「そうか……まぁそうじゃよなぁ。ずっと病院が長かったからのぉ。夏はまた色々と変わっておるじゃろうから、今度は遠出でもするか?」

「いいの?」

「暑いから北に行くのもいい。そちらならあまり時間をかけずに行けるし、温泉もあったはずじゃ」

「楽しみ!」

「夏までに手配しておくから、冬弥達とまた日にちを決めてきておくれ」

そろそろ時間だと言われ、周太郎に荷物を持ってもらい社まで行く。

「いつでも遊びにいらっしゃい」と栞の祖父母が言ってくれ、祖母は「私たちもまた遊びに行くからね」と言ってくれる。

「さてと、そろそろ行くかの。送ったら帰ってくるで、屋敷のことは頼んだぞ」

荷物を持ってもらい社の中に入る時に手を振る。

扉が閉まるとポゥっと明るくなり、その瞬間栞の社の前に出る。

「ここからならうちは近いね」

「そうじゃの。それより、森で気をねっていたのではないのか?」

「見てきてもいい?」

荷物を持たせたままと言うのは悪いと思ったが、気になったので木に近付く。

手を触れるとちゃんとドクドクと脈を打つ音が聞こえたので、ただいまと手を触れて気を流す。

ドクン__

一際大きく脈を打った感じがしてつい手を離してしまったが、まだ何も見えないのでまた明日ねと家に向かう。
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