下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

文字の大きさ
上 下
37 / 99
七泊八日

.

しおりを挟む
「ムキュッ。あー」

「あー。って何?ほらこぼしてる!ぺっしちゃダメ!」

「めー!」

「めーじゃなくて……無くて、これ話してるのかな?」

「みたいですね。でも早すぎますよ?あと数ヶ月はと思っていたんですけどねぇ」

「めっ!」

「これ真似してるのかも。要らなくなるとぺってするの怒るから」

「では躾を……」

「待って待って!翡翠はまだ赤ちゃんだよ?それに理解してるかもわからないし」

「魚でもあげてみましょうか。そろそろ飲み込めるでしょうし」

ペッ!

「あー!もう!」

「まだ柔らかくした方がいいかもしれませんねぇ」

「この魚柔らかいのに?」

「もっと水分が多いほうが飲み込みやすいのかもしれません」

「だから出しちゃうんだ……でもペッはダメだよ?」

「ンキュッ!」

「はいはい。金たちはおにぎりでいいの?」

「魚入れてくれた。これでいい!」

「銀も!」

「食べすぎないでよ?」

「うん」

みんなが食べてるのを見て、もっとくれと膝をよじ登ってくる翡翠を下におろし、ペッするからダメ!と言うと「キューキュー」と泣き出してうるさくなったので、ごめんねと影に戻す。

「僕、ものすごく意地悪してるみたい……」

「それでいいんです。続けていたら、何が良くて何がダメなのか分かってくるでしょう。だから意地悪ではないです」

その後、京弥が帰宅したのでまたお膳が増え朝食をとってもらい、女中頭は途中で席を立って粥を幸に持っていくと出ていった。

「京弥さん、どうなったの?」

「牢に入れてあります。雪翔の言っていたことがおおよそ当たってました。お手柄です」撫で撫で撫で撫で……

「やっぱり僕禿げちゃう……」

「禿げないです。みんなに言われるでしょう?それと街の見回りを強化したのでお祭りも例年通り行いますから、一族の誰かと周太郎は必ず連れて行くように」

「行ってもいいの?」

「いいですよ?ただ本当に混み合うので、必ず誰かと一緒に……」「兄上?私の事忘れてませんか?」

言い合いをしている訳では無いが、兄弟で自分の車椅子を押すのはどっちだと言っているので、お茶を飲みながらやり取りを見ていると、みんなが急に立ち上がり練習でもしていたようにお膳を片付け始める。

「みんなが帰ってきたようですねぇ」

「やっぱり怒られるの?」

「それは無いんですけど、昔、ここで酒盛りをしていて怒られたことはありますから、みんなもう癖づいてるんですよ」

「たまにはいいんじゃない?」

「いいですよ?そこに私たちがいなければ」

「居たんだ……」

「兄上も居ましたよねぇ?」

「居たねぇ。あの時は父上の酒を飲んだから怒られたんだと思ってるよ?北の銘酒だったと思ったけど。あの後売ってなくて探すのが大変だったよ」

「それも樽でしたしねぇ……」

怒られるのは当然だと思い、大人しい京弥まで参加していたことにも驚き、頭には祖父の怒り顔が浮かぶ。

「お、お祭りって冬弥さんは社に行くから来れないんじゃ……」

「あ……」

「な?だから一族と周太郎でいいだろ?」

「はい……ただし、姿を現して二人付けてください。押すのは周太郎で構いませんが、本当は四方を囲んでほしいくらいです……」

「みんなにつけて屋敷にも残さないといけないから、二人でいいだろう?」

「ええ、後ですね……この年末年始の時には影も揃えておかないといけないんです。なので紫狐も連れて行きますが……」

「うん」

「元旦が終わるまで社を離れられないので迎えにこれないのですけど……」

「大丈夫だよ?」

「いい子にしててくださいよ?」

「子供じゃないもん」

「まだまだ子供です。私と栞さんは明日の夕方にはあちらに行かないといけません。必ず周太郎を側に!ですよ?」

「冬弥……お前しつこいな?」

「可愛いわが子ですからねぇ」

撫で撫で撫で撫で……
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

生贄の花嫁~鬼の総領様と身代わり婚~

硝子町玻璃
キャラ文芸
旧題:化け猫姉妹の身代わり婚 多くの人々があやかしの血を引く現代。 猫又族の東條家の長女である霞は、妹の雅とともに平穏な日々を送っていた。 けれどある日、雅に縁談が舞い込む。 お相手は鬼族を統べる鬼灯家の次期当主である鬼灯蓮。 絶対的権力を持つ鬼灯家に逆らうことが出来ず、両親は了承。雅も縁談を受け入れることにしたが…… 「私が雅の代わりに鬼灯家に行く。私がお嫁に行くよ!」 妹を守るために自分が鬼灯家に嫁ぐと決心した霞。 しかしそんな彼女を待っていたのは、絶世の美青年だった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

下宿屋 東風荘 4

浅井 ことは
キャラ文芸
下宿屋 東風荘4 ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:.. 大きくなった下宿に総勢20人の高校生と大学生が入ることになり、それを手伝いながら夜間の学校に通うようになった雪翔。 天狐の義父に社狐の継母、叔父の社狐の那智に祖父母の溺愛を受け、どんどん甘やかされていくがついに反抗期____!? ほのぼの美味しいファンタジー。 ☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆.。.:*・°☆*:.. 表紙・挿絵:深月くるみ様 イラストの無断転用は固くお断りさせて頂いております。 ☆マークの話は挿絵入りです。

廻り捲りし戀華の暦

日蔭 スミレ
恋愛
妖気皆無、妖に至る輪廻の記憶も皆無。おまけにその性格と言ったら愚図としか言いようもなく「狐」の癖に「狐らしさ」もない。それ故の名は間を抜いてキネ。そんな妖狐の少女、キネは『誰かは分からないけれど会いたくて仕方ない人』がいた。 自分の過去を繫ぐもの金細工の藤の簪のみ。だが、それを紛失してしまった事により、彼女は『会いたかった人』との邂逅を果たす。 それは非ず者の自分と違う生き物……人の青年だった。 嗜虐癖ドS陰陽師×愚図な狐 切なめな和ファンタジーです。

あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 令和のはじめ。  めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。  同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。  酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。  休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。  職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。  おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。  庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

あやかし婚活姫と霊感従者の恋結び

ちづ
キャラ文芸
あやかしと駆け落ちしたいお姫様と、そんなお姫様に片想いしている従者との平安風ホラーラブコメ。 短編ですのでもしよろしければ。 内大臣家の末娘の結姫は、父親に望まない輿入れを迫られていた。嫌気が差したある日、幼馴染の従者に、幽世で駆け落ちしてくれるあやかしを探してきて欲しいと頼み込む。けれど、従者はずっとそんな姫君に片想いをしていて── 平安和風ファンタジー主従ものです。

半妖のいもうと

蒼真まこ
キャラ文芸
☆第五回キャラ文芸大賞『家族賞』受賞しました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございました。 初めて会った幼い妹は、どう見ても人間ではありませんでした……。 中学生の時に母を亡くした女子高生の杏菜は、心にぽっかりと穴が空いたまま父親の山彦とふたりで暮していた。しかしある日、父親が小さな女の子を連れてくる。 「実はその、この子は杏菜の妹なんだ」 「よ、よろしくおねがい、しましゅ……」 おびえた目をした幼女は、半分血が繋がった杏菜の妹だという。妹の頭には銀色の角が二本、口元には小さな牙がある。どう見ても、人間ではない。小さな妹の母親はあやかしだったのだ。「娘をどうか頼みます」という遺言を残し、この世から消えてしまったという。突然あらわれた半妖の妹にとまどいながら、やむなく面倒をみることになった杏菜。しかし自分を姉と慕う幼い妹の存在に、少しずつ心が安らぎ、満たされていくのを感じるのだった。これはちょっと複雑な事情を抱えた家族の、心温まる絆と愛の物語。

処理中です...