下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

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七泊八日

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「その辺も調べさせておる。しばらく紫狐を出しておきなさい。儂等の狐は出れなくなる前に戻ってきておる」

「分かったけど、その天狐の人は伝説って信じてるのかな?」

「確かめに来ておるのじゃ。それと昼のことはまた別と思うがの」

その後報告があり、今日はここで休めと言われて祖父母の間で寝る。

しーちゃんも、金銀も誰かの布団に潜り込んで寝ているが、窮屈ではなくちょっと心地よかった。


パタパタと足音が聞こえ、幸さんに起こされてから顔を洗って朝食の席に行く。

「起こしてくれたら良かったのに」

「よく寝ておったからの。それよりほれ沢山食べなさい。今日は沢山玉子も産んだそうじゃ」

「いただきます」

玉子焼きに白身魚の塩焼き、味噌汁に漬物。それだけでも十分なのだが、和物や豆腐などが付いてくるとどうしてもおかずでお腹がいっぱいになってしまう。

「あ、お婆ちゃんの櫛」

「似合う?」

「うん。似合ってるよ」

「良いですね。私も簪にしてもらいたいくらいです」

「次は幸さんに作るよ!」

喜んでもらうとやはり嬉しくて、棟梁に習っていて良かったと思う。

「京弥さん帰ってこなかったの?」

「ええ。たまにあるから気にしてないんですけど、帰らないといつまでも帰ってこないので……」

「今だけじゃろう。年が明けたらまた仕事も落ち着くじゃろうし、気にするとほれ、腹の子に障るから気にせんでもええ」

「はい」

「冬弥はどちらかと言うとのんびりしているけど、京弥は真面目1本ですからねぇ……たまには息抜きもと思いますよ?私も」

「じゃがなぁ、あやつも役人じゃからこればかりはのう……」

「ねえ、役人てなんのお役人なの?」

「人間の世界で言うと、警察の偉いさんじゃ。総括ではないが、この東全体をまとめる……そう、署長とかいうやつにあたるかの」

「え?それ凄いんだけど」

「じゃから、どうしても京弥でなければ駄目な事もあるんじゃよ。儂の後釜じゃが、最年少であの地位についたものは京弥が初めてじゃ」

「すごい人旦那さんに持ったんだ。生まれてくる子も役人かな?」

「分からんぞ?社の狐になるかもしれんし、障子屋になるかもしれんしのぅ」

「家とか継ぐんじゃないの?」

「この家ではそれほど拘ってはおらんよ。冬弥が良い例じゃ。それに、儂も元は役人から社に移り天狐になったからのぅ」

「京弥さんは?」

「あ奴は特別上級校、大学に当たるが……そこでかなりすっ飛ばして位を上げておる。知恵も技もそのへんのものには負けまい」

「へぇ。頭も良くてかっこよくて強いってモテそう」

「そう、それがねぇ。京弥の一目惚れなのよ?幸さんは」

「どこで知り合ったの?本屋とか学校とか?」

「いえ、団子屋で」

「団子屋?」

「私が母の使いで買いに行った時に並んでたんです。新しく出来た団子屋で買ってきてと言われて。その時に私お財布を摺られてしまって……捕まえてくれたのが京弥さんでした」

「おおー」とつい拍手してしまう。

「でも、お礼をと言ったら……」

「言ったら?」

と紫狐まで出てきて正座して聞いている。

「結婚してくださいって……私もうびっくりして」

「一目惚れですね!」

「しーちゃん……」

「ごめんなさい。紫狐はこのような話がとても好きです。ドキドキワクワクするのです」

「ミーハーだったとは……」
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