下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

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七泊八日

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部屋へは周太郎がついてきて、八百屋や魚屋などの街は特に変わったことがなく、明日から新しい人が配達に来てくれると言う。

「坊ちゃん、足の方は?」

「擦り傷だけ。お風呂で洗ったし、もう血も出てないから平気だよ」

「いけません」

ちょっと待っててと言われ、戻ってくると少し大きめの箱を抱えていて、その中に消毒の薬などが入っており軟膏を塗られる。

「色は悪いですけど傷薬です。よく効くので今夜はこの包帯は取らないでください」

「分かった。ありがとう」

お礼を言ってろうそくを消してもらい、布団に入るとすぐに寝てしまった。


キュー!

「翡翠寝かせてよ」

キュイッ……

「寝かせてってば……」

カタカタカタカタカタ__

キュィキュイッ!!!

「何?」

月の薄明かりで見える範囲では特に何も見えず、またぐずっているのだろうと撫でるが、それでも威嚇しているように見えるので目を凝らして窓の外を見ると、光るものが二つ……

「……誰かいるの?」

入口の方に引っ張っていこうとする翡翠がおかしいと思ったのか、黒ずくめの昼とは違う人が自分の前に降り立ち「御館様の元へ」と一言言ってから窓に近づく。

車椅子を押して祖父の部屋に行き声を掛けると、もう連絡が行っていたようですぐに中に入れられる。

「雪翔、紫狐はどうした」

「え?」

「翡翠は出てきたのか?」

「え、うん。そうだけど」

「とにかく落ち着け。残党じゃろうて……」

「なんで僕を狙いに来るの?」

明かりをつけ、祖母が持ってきてくれた布団に座って聞くと、実は……と話し出してくれた。

「冬弥が天狐になった時に、名前を出したじゃろう?その時に雪翔が人間の子供で、冬弥の養子となったことも知れ渡った。そこまではいいのじゃが、その人間の子が術師だと噂が流れてのぉ……そんなことは無いと放っておいたんじゃよ。中にはやはり人を毛嫌いする輩もおる。陰陽師と狐は繋がりがあると言うてもまた別の話じゃ。多分紫狐が出てこれぬのは、無意識に体内に気が回っておるからかもしれん」

「こっちに僕が来たから……」

「それは気にせんでもいい。興味を持って見に来る輩もおるしの。儂は反対したんじゃよ。天狐の名を出す事で、本当にいると存在は分かるようになるが、本当にそれでいいのかとな……天狐の枠は七つ。地位や金で買えるものではないし、排除しようにも力の差は歴然としておる。儂も衰えたとはいえ元天狐じゃ。それは皆知らぬし、本来屋敷に入ってくる馬鹿共はおらんのじゃが……」

「僕を狙ってもいいことなんてないよ?」

「今はな。城に行ったじゃろう?」

「うん」

「儂はあ奴らが誰かをここに偵察にこさせたと思うておる」

「なんで?」

「雪翔、もしもよ?もしもだけど、力を使えたとしたら、雪翔の力を欲しがるものはたくさんいるの。それも、昔からの伝説にこだわる者達はね。私も仙だったから話はいくつか聞いたことがあるけど、言い伝えは言い伝えと信じてなかったのよねぇ……。城でも言われたでしょう?」

「うん……腹が立ってあまり覚えてないけど……」
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