下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

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七泊八日

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「お仕事の時に使ってね」

「ありがとうございます。私たち下々にまでお土産等勿体なくて……」

「使ってもらわないと意味無いからね?これ、色違いのもあるから、交代で使うといいと思う」

「はい。中は見ましたか?」

「兎の肉だって言ってたけど、僕食べたことないよ。山盛りだった」

「私がとってきたんですが、柔らかいですよ?この辺りでは売るのに飼育しているところもありますから」

「兎を?」

「食用なんです。ほかの兎は食べませんが、やはり野生の方が良いのでと朝から狩りに」

「狩りもするの?何でもできるんだね!」

「そうでもないです。ここで世話になってるものの多くは、御館様に助けてもらったものばかりで……あ!これは内緒で……」

「?うん。そうだ!ちょっと見ててね?」

周太郎にもう少し前に来てくれと言い、車椅子から立つ。

「ぼ、坊ちゃん?」

小さい歩幅ながらも一歩ずつ歩き、五歩目で周太郎の所に着く。
しがみついて立ちながら、えへへ!と顔を見るとボロボロと泣いているので、泣かないでよとポケットからハンカチを出して顔を拭く。

そのまま車椅子に戻してもらったが、泣き声が大きいのでみんな何事かと出てきてしまった。

祖父母から冬弥、栞まで出てきたので、もう一度今度は冬弥に立ってもらって、一歩ずつ歩く。
ドンとぶつかってコケそうになるのを支えてもらい、次は車椅子まで戻って座ると、みんなが泣きながら拍手してくれる。

栞と冬弥に至ってはニコニコと笑いながらも涙を滲ませ、よく頑張ったと褒められた。

「皆、宴の準備じゃ!雪翔が歩いたぞ!」

「おおー!」とみんなが仕事に戻り、いつから歩けたのかと聞かれる。

「今日初めてだよ?いつも支えがないと無理だったけど、二三歩までは歩けた時もあったから。それでも普通の人の1歩くらいだけど」

「リハビリ頑張ってましたからねぇ。本当によかった」

「でも、まだ疲れちゃう。走れるようになるまではまだまだ遠いけど」

「いいんです。その1歩が大切です」

「そうよ!雪翔君毎日頑張ってるもの。歩けるようになるって私信じて……」

「泣かないでよ……」

夜は結婚祝いの筈が何故か歩けた記念にもなり、お肉と野菜はシチューに。採れたての野菜はサラダに。ほかは知らない名前の料理が沢山出てきたが、どれも美味しくてたくさん食べ、栞のお爺ちゃんとお風呂に入った。

「雪翔は細いな」

「そう?病院で寝てばかりだったからかな?」

「いきなりは無理だろうが、もっと食べてたくさん遊んで体力をつけねばな」

「うん」

風呂を出てからは、翡翠やみんなを出してご飯をあげて、翡翠への世話の仕方などを聞いた。

「食べてる……あ!またペッてした……小さく切ったのに!」

「もう腹がいっぱいなのかもしれん。翡翠はまだたくさん食べられんから、このくらいの量と覚えておくといいが、わかりやすい子でもある」

「ペッてするから?」

「それもあるが、ほれ、もう遊んでくれと言っておるわ」

ヨチヨチとみんなの近くに行き、膝に登ろうとしたり、服の裾を引っ張ったりとわかりやすいと言えばわかりやすい。

「立てるようになる頃に躾をしていかんとな」

「どのくらい?」

「そうじゃのぅ。次の春くらいかの?」

「そっか。お爺ちゃん達も狐の姿で生まれるの?」

それを聞いたみんなが爆笑し、流石にそれはなく、民は人間と同じように生まれ、二三ヶ月で耳としっぽが出るそうだ。狐の姿で生まれるのは影の狐位のもので、世話は動物と変わりないと聞いた。

「育つ速度は違うが、話すのは立てるようになってしばらくしてからじゃな。その前に話せれたら、格の高い狐かもしれん」
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