下宿屋 東風荘 3

浅井 ことは

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新たなる出会い

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「雪翔君?」

「暖炉の前だよ」

「どう?その狐」

「まだ震えてるんだ……毛布のがいいのかなぁ?」

「それで十分よ?どれどれー?あ、女の子ね。生まれてまだそんなに経ってなさそうだし、目もなんとか見えるくらいかしら?」

「よく分かるね?」

「これでもお社の狐ですもの。そのスポンジであげたの?」

「でも少ししか飲まなくて」

「慣れてないだけだと思うから、数回に分けてあげたらいいと思うわよ?」

「もう歩ける大きさなの?」

「ヨチヨチ歩きでしょうね。まだ親から離れない年よ?この近くにいないかしら?」

「栞さんの社は?」

「入ったら分かるようになってるの。だからあの森のところかな?」

「明日にでも探しに行っていい?」

「いいわよ?森って言っても社と住宅地の間だけそうなってるだけだから広くないし、木の根元なんか見てみたらいるかも」

「でも、可愛いなぁ。寝てると子猫みたい」

「そうだ、何か用事だった?」

「ごめんなさい。ご飯だから呼びに来たのよ。紫狐ちゃんこの狐のことお願いできる?」

「はいー。冬弥様の奥様も紫狐のご主人様ですから、何なりと!」

「ありがとう。雪翔君、早く!みんなに言って欲しいの……お願い!」

「分かった。しーちゃんごめんね。行ってきます」

隣の食堂につくと、珍しく誰も喋らずしーんと静まり返っていた。
食事を運んでくれた栞さんも席につき、早くと目で訴えてくる。

「みんな、あのね……」

「どうした?」

「賢司さん、海都君、堀内さん!あのね、冬弥さんと栞さん、今日結婚しました!」

「えぇーーーーー!」

「だから無言だったの?」

「落ち着け海都、堀内さん叫びすぎ!それにもう夫婦みたいなものだっただろ?今更驚くことあるか?」

「だよね……」

「ふぅー。安心しました。緊張してまして」

「だからって怒った顔してなくてもいいのに。それに僕じゃなくて二人から話すのが……」

「まぁまぁ、良いじゃないか。おめでたい事だよ。今日入籍ですか?」

「はい。市役所に行ってきました」

「式は?」と賢司が聞くと、まだ未定とだけ冬弥が答える。

そうなんだ。と賢司がこちらを見てきたので、何かあるなと思ってそのままご飯を食べて、家に戻るとラインが来ていた。

[隆弘が帰ってきたら作戦会議するから、決まったら報告する]
[わかった。二人は新婚旅行も悩んでるよ!]

返事をして、リビングに居る冬弥さんに小狐を見てもらおうと移動し、二人が仲良さそうに話しているのをみて部屋に引き返す。

「ゆっきー?」

「邪魔しちゃ悪いから。今この狐寝てるから、僕お風呂に入ってくるね」

お風呂から出たことだけを伝えて、クローゼットから予備のひざ掛けを出す。

もう季節は冬。
いつの間にか12月になっていた。

「掛けておいたら温かいよね」

そう言って一年生後期の問題集を解き、参考書から受験の勉強もする。

「あー。気になって出来ないよ……」

「ゆっきー、お薬は?」

「あ、そうだった」

ペットボトルの水で薬を飲んで、早々に布団に入る。明日は学校は終業式だったはずだから、またみんなお正月に家に帰るんだろうなと思いながら眠りに落ちる。
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