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ひと夏の思い出編
119色 分かれ道の先で
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「やはりこうなったか」
「…………」
ワタシは塞がれた道の二つを確認し、残された道の方を眺めると、後ろの人間に言葉を向ける。
「さあ、キサマはどうする? 『我が半身』」
「…………」
その人間……『我が半身』……正しくは『転生体』とでも云っておこうか。 その人間はやる気のない眼をして口数も少ない、まるで『抜け殻』の様な人間だ。 だが、それは当然のことだ。 こいつの魂は『ワタシ』だからな。 しかし、本人にその自覚はなく、周りの人間達もそのことを知らない。 数年前にワタシの魂が目覚め、そして、数か月程前に魂と一体になる為にこいつの所に出向いた時はワタシはかなり意表を突かれたものだ……何せ『奴らが色を添えていた』からな。 だから、ワタシは『様子を伺うことにした』のだ。
「……こうなること……わかってたのか?」
ワタシが思考を巡らせいると半身が生気のない声と眼を向ける。 しかし、その眼の奥から『憤怒』の様なものを感じた。
「さあ、どうだろうな」
「…………」
適当に流してやると眼の奥の色がさらに深くなった。
「そんなにあの『風の小僧』と『あのチカラを持ってる小娘』達が心配か?」
「あたりまえだ」
ワザと『あの二人』を強調していってやると、こいつにしては珍しく即答した。
「まあ、どうでもいいさ。 そんなに敵意を向けなくても『キサマは守ってやる』」
「……!」
ワタシの言葉に半身は驚いた表情をするが、すぐにいつも通りの無表情になり歩き出し、残りの空いた道に入っていこうとする。
「何処へ行く気だ?」
突然の奇妙な動きに呼び止めると、半身は立ち止まり、こちら無表情な顔を向け答える。
「……『守りたい』ならみんなを『助けろ』」
「……!」
まるで、ワタシをあざ笑う様にいうと、そのまま道なりに進んで行く。
(……こいつ)
ワタシは驚愕した。 こいつは自分を『人質にした』のだ。 ワタシの今の言葉からその発想に至ったからではなく、こいつはもしかして『本能的に理解している』のではないのかと感じる、自身の魂であるワタシがどうすれば『嫌がる』のかを……。
(…………いや……考えすぎか……)
奴の行動に驚きながらも、一度思考を整理し、後に続いた。
◆ ◆ ◆
他のみんなと離されてしまったワタシと緑風くんは、とりあえず、森の奥へと進んでいく。
「…………」
「…………」
互いに無言で歩き、木々の揺れる音だけ聞いていると、隣を歩く彼が気まずそうに口を開く。
「……えっと……その……むらさきさん」
無言の空気に耐えられなかったのか、会話をしようとあたふたとしだす。
「別にムリに会話をしようとしなくてもいいわよ」
「え?」
突き放す様な言い方をしてしまい、緑風くんは固まってしまう。 ワタシはちょっと強く言い過ぎてしまったかと横目で彼をみると、彼は口ごもりながらナニかを言いたそうにしている。
「……え……えっと……ごめん……」
ナゼか謝られてしまいワタシはちょっと驚いた表情を浮かべると、緑風くんは言葉を続ける。
「さっき、その、突き飛ばしちゃって……ごめん、その……ケガとかないかな?」
「え?」
てっきりワタシが強く言い過ぎたことかと思ったが、違ったようだ。 それにナゼか少し安心してしまう。
「……べ、べつにいいわよ……それに、助けてくれたんでしょ? なんでアナタがあやまるのよ? …………まあ、その……ありがとう」
フォローをするついでにお礼を伝えようとしたら、ナゼか恥ずかしくなってしまい、目を逸らしながらいってしまう。 ワタシの言葉を受けた彼は嬉しいそうな笑顔を浮かべる。
「こちらこそありがとう」
屈託のない笑顔を向けられ、ワタシはナゼかさらに恥ずかしくなる。 それを誤魔化す様にワタシは顔を逸らしながらいう。
「なんで逆にアナタがお礼をいうのよ。 それにアナタのその、すぐ謝ったり、お礼をいったりするのはなんなのよ」
「うれしいことやいいことには『ありがとう』。 いけないことや悪い事をしたら『ごめんなさい』じゃないのかな?」
「ナニよその純粋過ぎる言葉は」
思ってた以上に純粋過ぎる言葉が返ってきたので、ついツッコんでしまう。
「だから、いつか『れいたくん』とも仲直りできるといいね」
「……!」
突然、『あいつ』の話題を出した彼を睨みつけてしまう。 そんなワタシの視線を受けてビクリとカラダを震わす緑風くんをみて、わたしは慌てて視線を逸らす。
「……な、なんで今、あいつの話題がでてくるのよ……」
彼から目を逸らしながら聞くと、彼は素直に答えてくれる。
「……ご、ごめん、れいたくんとむらさきさんに『なにかあった』ってことはしってて、触れてほしくない内容だってこともわかってるけど、その……」
上手く言いたいことがまとまらないのか、しどろもどろに言葉を繋げていく。
「わるいけど、あなたには関係ないわ……お人好しも過ぎると『嫌われる』わよ」
「…………」
ワタシはかなりキツイことをいってしまったと思い、無意識にいじっている髪を少し握る。
「……ぼくは『嫌われてもいいよ』……『なれてる』から」
「え? ……!」
彼の言葉にワタシは顔を上げみると、彼は『笑っていた』。 そして、ワタシは『後悔した』……その笑顔が『ナニか映している様に視えた』から。
「でも、なんだかんだいってれいたくんがいるのに、ここにきてるのってほんとうは心の底では『嫌ってない』んじゃないかな」
「え?」
「ぼくは、れいたくんが嫌ってるむらさきさんもみてるし、むらさきさんが嫌ってるれいたくんもみてるよ」
彼はとても柔らかい笑顔を作る。
「だから、二人ともほんとうは『やさしい』ってぼくはしってるよ」
『やさしい』その言葉に少しむず痒さを覚える。 ナゼなら彼の『やさしさ』に比べたらワタシなんて性格が歪んでいるからだ。
「……別にワタシはやさしくなんかないわよ……だって……あいつと会えなくなったってなんとも思わないし、同じ商店街だから仕方なく顔を合わしているだけよ」
「もし、ほんとうに突然あえなくなっちゃったら? もし、ある日突然、いなくなっちゃたら? さっきまでとなりにいたのに、突然、自分のとなりからいなくなっちゃったら?」
「…………」
「その時はどうするの?」
彼はとても哀しそうに、まるでそれがあったかの様な苦しそうな表情をしていた。
『アナタにはそれがあったの?』と聞き返したかったが、それができない程に彼の心の底のナニかを感じた。 普段、とても優しくてかなり抜けているところがあるけど、超がつくほどのお人好しな彼からは想像ができない程、深い哀しみを感じた。
ガサッ!
「きゃあっ!?」
「ひぐう!?」
突然茂みの奥から音がして、反射的に叫んでしまい、緑風くんも変な叫びを上げる。
「な、ナニよ、今の声……」
彼の変な声に呆れた様にいうと、わたしは自分の無意識に取った行動に固まった。
『彼の腕にしがみついていた』のだ。
「~~!!?」
わたしはすぐに彼の腕を放し、距離を取る。
「ち、ちがうの! 今のはっ!」
わたしが弁明しようとすると、ナゼか彼の顔が青くなっていた。
「も、もしかして、あなた『怖がってる』の?」
「!」
わたしの言葉に彼はカラダをビクリと反応させる。
「呆れた……いくらなんでも驚きすぎよ」
「……はは」
わたし以上に怖がっていた彼をみて、わたしはため息混じりにいうと、彼は引きつった笑顔で返す。
ガサガサッ!! ガサッ!!!
「きゃあああ!!!」
ナニかが茂みから飛び出してきた。
◆ ◆ ◆
「色野様、守目様、先程は大変失礼致しました。 お怪我の方は?」
シアンたちと分断されてしまい、しばらく歩いていると、イブキくんが聞いてきた。 それをリーンは笑顔を向け答える。
「うん、全然大丈夫だよ。 それにお礼を言いたいのはこっちだよ、ありがとね」
「うんうん! さっきは助けてくれてありがとう!」
わたしとリーンはイブキくんにお礼を伝えると、イブキくんは左手を胸に当て執事のように頭を下げる。
「勿体ないお言葉、主のご友人を命に変えても守るのが、私の使命でございます」
「かたいかたい」
あまりのがっちりとした執事動作にリーンが苦笑いでツッコム。
「ですが、私は主を守れなかった身……一生の不覚でございます」
イブキくんはフラウムが行方不明になったと聞いた時からすごい落ち着かない感じだった。 まるで、本当に命を捨ててしまうんじゃないかってぐらい険しい表情をしていたんだ。 みんなそれにはちゃんと気づいていたみたいでイブキくんに気に病まないように声をかけていたんだ。
そんなイブキくんの前にリーンは立ち、やさしい笑顔を向ける。
「大丈夫だよ……とは、口では簡単にいえるけど、やっぱり心配だよね、そりゃあわたしたちだって心配だよ。 でもね、それはイブキくんのせいなんてことはないし、もちろんわたしたちのせいでもない、だからこそ、ここはわたしたちでみんなを探すのを協力するんだよ」
「そうそう! わたしたちは『トモダチ』だから助けあうのに理由はないよね!」
「トモダチ?」
「うん、わたしたちとフラウムはトモダチでもちろんイブキくんともトモダチだよ!」
わたしの言葉にイブキくんはすこし驚いた顔をする。
「トモダチというのは、どの様になれるのでしょうか? 盃を交わすとかでしょうか?」
「それは兄弟盃じゃ?」
「トモダチというのは心と心が通じ合う、ブラザーの様な関係で拳で語り合うものでは?」
「ずいぶん暑苦しいね」
イブキくんのトモダチ認識にリーンはツッコムけど、言葉を続ける。
「まあ、間違ってないことはないのかな? ……でも、そういう暑苦しいものじゃなくて、トモダチっていうのは、『いつのまにかなってるもの』なんだよ」
「いつのまにかなってる?」
「うん!」
わたしはリーンの言葉に続く。
「わたしたちとイブキくんはトモダチ! それに理由は必要ないよ」
「逆にいえば、フウちゃんとイブキくんもトモダチだね」
「!? ……私とお嬢様もですか?」
イブキくんはその言葉が信じられないといった顔をする。
「……私には……そんな大それた事を思うしかくなど……」
「フウちゃんはそれをダメなんて言ったのかな?」
「え?」
リーンはイブキくんに真剣な顔を向ける。
「キミはフウちゃんの執事なんだよね? なら、フウちゃんのなにを見てきたの?」
「!?」
リーンの言葉にイブキくんのカラダがビクリと反応する。
「キミも分かってるんじゃないかな、フウちゃんはイブキくんのことを『執事』としてじゃなくて『トモダチ』、いや、『家族』としてみていたことに」
「…………」
「だから、主従関係じゃなくて『家族』として探してみないかな?」
リーンの言葉にイブキくんは顔を下げてなにかを考えている様子だった。 数秒後、考えがまとまったのか顔を上げた。
「…………私は皆様のご友人方……そして、お嬢様を……!!」
イブキくんは突然驚愕の表情を浮かべると、言葉を切り、わたしとリーンの腕を自分の背後に投げ飛ばすように勢いよく引いた。
「!?」
突然、勢いよく腕を引かれてわたしとリーンは地面に倒れ、ナニが起きたか分からずに反射的にイブキくんの方をみると、イブキくんが『ツルに巻きつかれていた』。
「イブキくん!!」
「来てはなりません!」
駆け寄ろうとするわたしをイブキくんは静止する。
「逃げてください!」
「で、でも!」
わたしの言葉を遮りイブキくんは苦しそうにしながらいう。
「……くっ……お嬢様を……『フウムさん』をお願いします!」
「!?」
「あかりん! いくよ!!」
わたしがその場から動けないでいると、リーンがわたしの腕を引いて走り出す。
「リーンッ! イブキくんが!」
「全員捕まっちゃ意味がいないよ!」
リーンはわたしの腕を引き走りながらいい、わたしたちは無我夢中で走り続ける。
前速力で走り続けるけど、徐々にツルがわたしたちに迫ってきた。
「あかりん! これもって!」
リーンはわたしから手を放すと、走りながら、ふところに手を入れ、そこからカメラを取り出して、わたしに渡してくる。
「え!? なんで今カメラ!?」
「いいから!」
わたしのツッコミにリーンは有無をいわさないといった感じで真剣な顔で渡してくる。 わたしがそれを受け取るのを確認すると、リーンは今度はふところから筒状のナニかを取り出して、前方に思いっきり投げた。
「『フィルムチェンジ』!」
リーンが呪文を唱えるのと同時にわたしの視界がすこし『変わった』。
「えっ!?」
わたしが驚いて後ろを振り返ると、数十メートル後ろでリーンがツルに捕まっていた。
「リーンッ!!」
「いってぇー!!」
立ち止まろうとしたわたしにリーンは叫び、わたしは、逃がしてくれたリーンの思いを受けて全力で走り、茂みの中に入っていった。
「…………」
ワタシは塞がれた道の二つを確認し、残された道の方を眺めると、後ろの人間に言葉を向ける。
「さあ、キサマはどうする? 『我が半身』」
「…………」
その人間……『我が半身』……正しくは『転生体』とでも云っておこうか。 その人間はやる気のない眼をして口数も少ない、まるで『抜け殻』の様な人間だ。 だが、それは当然のことだ。 こいつの魂は『ワタシ』だからな。 しかし、本人にその自覚はなく、周りの人間達もそのことを知らない。 数年前にワタシの魂が目覚め、そして、数か月程前に魂と一体になる為にこいつの所に出向いた時はワタシはかなり意表を突かれたものだ……何せ『奴らが色を添えていた』からな。 だから、ワタシは『様子を伺うことにした』のだ。
「……こうなること……わかってたのか?」
ワタシが思考を巡らせいると半身が生気のない声と眼を向ける。 しかし、その眼の奥から『憤怒』の様なものを感じた。
「さあ、どうだろうな」
「…………」
適当に流してやると眼の奥の色がさらに深くなった。
「そんなにあの『風の小僧』と『あのチカラを持ってる小娘』達が心配か?」
「あたりまえだ」
ワザと『あの二人』を強調していってやると、こいつにしては珍しく即答した。
「まあ、どうでもいいさ。 そんなに敵意を向けなくても『キサマは守ってやる』」
「……!」
ワタシの言葉に半身は驚いた表情をするが、すぐにいつも通りの無表情になり歩き出し、残りの空いた道に入っていこうとする。
「何処へ行く気だ?」
突然の奇妙な動きに呼び止めると、半身は立ち止まり、こちら無表情な顔を向け答える。
「……『守りたい』ならみんなを『助けろ』」
「……!」
まるで、ワタシをあざ笑う様にいうと、そのまま道なりに進んで行く。
(……こいつ)
ワタシは驚愕した。 こいつは自分を『人質にした』のだ。 ワタシの今の言葉からその発想に至ったからではなく、こいつはもしかして『本能的に理解している』のではないのかと感じる、自身の魂であるワタシがどうすれば『嫌がる』のかを……。
(…………いや……考えすぎか……)
奴の行動に驚きながらも、一度思考を整理し、後に続いた。
◆ ◆ ◆
他のみんなと離されてしまったワタシと緑風くんは、とりあえず、森の奥へと進んでいく。
「…………」
「…………」
互いに無言で歩き、木々の揺れる音だけ聞いていると、隣を歩く彼が気まずそうに口を開く。
「……えっと……その……むらさきさん」
無言の空気に耐えられなかったのか、会話をしようとあたふたとしだす。
「別にムリに会話をしようとしなくてもいいわよ」
「え?」
突き放す様な言い方をしてしまい、緑風くんは固まってしまう。 ワタシはちょっと強く言い過ぎてしまったかと横目で彼をみると、彼は口ごもりながらナニかを言いたそうにしている。
「……え……えっと……ごめん……」
ナゼか謝られてしまいワタシはちょっと驚いた表情を浮かべると、緑風くんは言葉を続ける。
「さっき、その、突き飛ばしちゃって……ごめん、その……ケガとかないかな?」
「え?」
てっきりワタシが強く言い過ぎたことかと思ったが、違ったようだ。 それにナゼか少し安心してしまう。
「……べ、べつにいいわよ……それに、助けてくれたんでしょ? なんでアナタがあやまるのよ? …………まあ、その……ありがとう」
フォローをするついでにお礼を伝えようとしたら、ナゼか恥ずかしくなってしまい、目を逸らしながらいってしまう。 ワタシの言葉を受けた彼は嬉しいそうな笑顔を浮かべる。
「こちらこそありがとう」
屈託のない笑顔を向けられ、ワタシはナゼかさらに恥ずかしくなる。 それを誤魔化す様にワタシは顔を逸らしながらいう。
「なんで逆にアナタがお礼をいうのよ。 それにアナタのその、すぐ謝ったり、お礼をいったりするのはなんなのよ」
「うれしいことやいいことには『ありがとう』。 いけないことや悪い事をしたら『ごめんなさい』じゃないのかな?」
「ナニよその純粋過ぎる言葉は」
思ってた以上に純粋過ぎる言葉が返ってきたので、ついツッコんでしまう。
「だから、いつか『れいたくん』とも仲直りできるといいね」
「……!」
突然、『あいつ』の話題を出した彼を睨みつけてしまう。 そんなワタシの視線を受けてビクリとカラダを震わす緑風くんをみて、わたしは慌てて視線を逸らす。
「……な、なんで今、あいつの話題がでてくるのよ……」
彼から目を逸らしながら聞くと、彼は素直に答えてくれる。
「……ご、ごめん、れいたくんとむらさきさんに『なにかあった』ってことはしってて、触れてほしくない内容だってこともわかってるけど、その……」
上手く言いたいことがまとまらないのか、しどろもどろに言葉を繋げていく。
「わるいけど、あなたには関係ないわ……お人好しも過ぎると『嫌われる』わよ」
「…………」
ワタシはかなりキツイことをいってしまったと思い、無意識にいじっている髪を少し握る。
「……ぼくは『嫌われてもいいよ』……『なれてる』から」
「え? ……!」
彼の言葉にワタシは顔を上げみると、彼は『笑っていた』。 そして、ワタシは『後悔した』……その笑顔が『ナニか映している様に視えた』から。
「でも、なんだかんだいってれいたくんがいるのに、ここにきてるのってほんとうは心の底では『嫌ってない』んじゃないかな」
「え?」
「ぼくは、れいたくんが嫌ってるむらさきさんもみてるし、むらさきさんが嫌ってるれいたくんもみてるよ」
彼はとても柔らかい笑顔を作る。
「だから、二人ともほんとうは『やさしい』ってぼくはしってるよ」
『やさしい』その言葉に少しむず痒さを覚える。 ナゼなら彼の『やさしさ』に比べたらワタシなんて性格が歪んでいるからだ。
「……別にワタシはやさしくなんかないわよ……だって……あいつと会えなくなったってなんとも思わないし、同じ商店街だから仕方なく顔を合わしているだけよ」
「もし、ほんとうに突然あえなくなっちゃったら? もし、ある日突然、いなくなっちゃたら? さっきまでとなりにいたのに、突然、自分のとなりからいなくなっちゃったら?」
「…………」
「その時はどうするの?」
彼はとても哀しそうに、まるでそれがあったかの様な苦しそうな表情をしていた。
『アナタにはそれがあったの?』と聞き返したかったが、それができない程に彼の心の底のナニかを感じた。 普段、とても優しくてかなり抜けているところがあるけど、超がつくほどのお人好しな彼からは想像ができない程、深い哀しみを感じた。
ガサッ!
「きゃあっ!?」
「ひぐう!?」
突然茂みの奥から音がして、反射的に叫んでしまい、緑風くんも変な叫びを上げる。
「な、ナニよ、今の声……」
彼の変な声に呆れた様にいうと、わたしは自分の無意識に取った行動に固まった。
『彼の腕にしがみついていた』のだ。
「~~!!?」
わたしはすぐに彼の腕を放し、距離を取る。
「ち、ちがうの! 今のはっ!」
わたしが弁明しようとすると、ナゼか彼の顔が青くなっていた。
「も、もしかして、あなた『怖がってる』の?」
「!」
わたしの言葉に彼はカラダをビクリと反応させる。
「呆れた……いくらなんでも驚きすぎよ」
「……はは」
わたし以上に怖がっていた彼をみて、わたしはため息混じりにいうと、彼は引きつった笑顔で返す。
ガサガサッ!! ガサッ!!!
「きゃあああ!!!」
ナニかが茂みから飛び出してきた。
◆ ◆ ◆
「色野様、守目様、先程は大変失礼致しました。 お怪我の方は?」
シアンたちと分断されてしまい、しばらく歩いていると、イブキくんが聞いてきた。 それをリーンは笑顔を向け答える。
「うん、全然大丈夫だよ。 それにお礼を言いたいのはこっちだよ、ありがとね」
「うんうん! さっきは助けてくれてありがとう!」
わたしとリーンはイブキくんにお礼を伝えると、イブキくんは左手を胸に当て執事のように頭を下げる。
「勿体ないお言葉、主のご友人を命に変えても守るのが、私の使命でございます」
「かたいかたい」
あまりのがっちりとした執事動作にリーンが苦笑いでツッコム。
「ですが、私は主を守れなかった身……一生の不覚でございます」
イブキくんはフラウムが行方不明になったと聞いた時からすごい落ち着かない感じだった。 まるで、本当に命を捨ててしまうんじゃないかってぐらい険しい表情をしていたんだ。 みんなそれにはちゃんと気づいていたみたいでイブキくんに気に病まないように声をかけていたんだ。
そんなイブキくんの前にリーンは立ち、やさしい笑顔を向ける。
「大丈夫だよ……とは、口では簡単にいえるけど、やっぱり心配だよね、そりゃあわたしたちだって心配だよ。 でもね、それはイブキくんのせいなんてことはないし、もちろんわたしたちのせいでもない、だからこそ、ここはわたしたちでみんなを探すのを協力するんだよ」
「そうそう! わたしたちは『トモダチ』だから助けあうのに理由はないよね!」
「トモダチ?」
「うん、わたしたちとフラウムはトモダチでもちろんイブキくんともトモダチだよ!」
わたしの言葉にイブキくんはすこし驚いた顔をする。
「トモダチというのは、どの様になれるのでしょうか? 盃を交わすとかでしょうか?」
「それは兄弟盃じゃ?」
「トモダチというのは心と心が通じ合う、ブラザーの様な関係で拳で語り合うものでは?」
「ずいぶん暑苦しいね」
イブキくんのトモダチ認識にリーンはツッコムけど、言葉を続ける。
「まあ、間違ってないことはないのかな? ……でも、そういう暑苦しいものじゃなくて、トモダチっていうのは、『いつのまにかなってるもの』なんだよ」
「いつのまにかなってる?」
「うん!」
わたしはリーンの言葉に続く。
「わたしたちとイブキくんはトモダチ! それに理由は必要ないよ」
「逆にいえば、フウちゃんとイブキくんもトモダチだね」
「!? ……私とお嬢様もですか?」
イブキくんはその言葉が信じられないといった顔をする。
「……私には……そんな大それた事を思うしかくなど……」
「フウちゃんはそれをダメなんて言ったのかな?」
「え?」
リーンはイブキくんに真剣な顔を向ける。
「キミはフウちゃんの執事なんだよね? なら、フウちゃんのなにを見てきたの?」
「!?」
リーンの言葉にイブキくんのカラダがビクリと反応する。
「キミも分かってるんじゃないかな、フウちゃんはイブキくんのことを『執事』としてじゃなくて『トモダチ』、いや、『家族』としてみていたことに」
「…………」
「だから、主従関係じゃなくて『家族』として探してみないかな?」
リーンの言葉にイブキくんは顔を下げてなにかを考えている様子だった。 数秒後、考えがまとまったのか顔を上げた。
「…………私は皆様のご友人方……そして、お嬢様を……!!」
イブキくんは突然驚愕の表情を浮かべると、言葉を切り、わたしとリーンの腕を自分の背後に投げ飛ばすように勢いよく引いた。
「!?」
突然、勢いよく腕を引かれてわたしとリーンは地面に倒れ、ナニが起きたか分からずに反射的にイブキくんの方をみると、イブキくんが『ツルに巻きつかれていた』。
「イブキくん!!」
「来てはなりません!」
駆け寄ろうとするわたしをイブキくんは静止する。
「逃げてください!」
「で、でも!」
わたしの言葉を遮りイブキくんは苦しそうにしながらいう。
「……くっ……お嬢様を……『フウムさん』をお願いします!」
「!?」
「あかりん! いくよ!!」
わたしがその場から動けないでいると、リーンがわたしの腕を引いて走り出す。
「リーンッ! イブキくんが!」
「全員捕まっちゃ意味がいないよ!」
リーンはわたしの腕を引き走りながらいい、わたしたちは無我夢中で走り続ける。
前速力で走り続けるけど、徐々にツルがわたしたちに迫ってきた。
「あかりん! これもって!」
リーンはわたしから手を放すと、走りながら、ふところに手を入れ、そこからカメラを取り出して、わたしに渡してくる。
「え!? なんで今カメラ!?」
「いいから!」
わたしのツッコミにリーンは有無をいわさないといった感じで真剣な顔で渡してくる。 わたしがそれを受け取るのを確認すると、リーンは今度はふところから筒状のナニかを取り出して、前方に思いっきり投げた。
「『フィルムチェンジ』!」
リーンが呪文を唱えるのと同時にわたしの視界がすこし『変わった』。
「えっ!?」
わたしが驚いて後ろを振り返ると、数十メートル後ろでリーンがツルに捕まっていた。
「リーンッ!!」
「いってぇー!!」
立ち止まろうとしたわたしにリーンは叫び、わたしは、逃がしてくれたリーンの思いを受けて全力で走り、茂みの中に入っていった。
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