上 下
51 / 124
カラーエブリデイ その2

51色 天海藍の観察日記2

しおりを挟む
 わたしの名前は天海藍あまみ らん。 どこにでもいる普通の学生だ。 魔導学はすこし優秀な方かもしれないけど、一番というわけではなく、強いていうならモノを浮かせる魔法が得意だ。 今日も今日とて平凡な日々を過ごしていた。

「ただいまー」

 鍵の開いているドアを開けて家にはいり、姉の研究所の前を通ると、例の如く声が聞こえてきた。

「キミとは本当に意見が合わないね」
「何を今更分かりきったことをいってるんですの?」

(あれ? いつもと違う声だ)

 そう思い、こっそりと入口から覗くと、おにいちゃんとクウタくん、そしてアカリさんの他に綺麗で清楚そうな女性とメガネの男性が睨みあっていた。

「二人とも落ち着いて、お茶でも飲んで落ち着こうよ」
「そうそう、シーニの紅茶がおいしくなくなっちゃうよ」

 それをクウタくんとアカリさんが止めていた。 おにいちゃんは興味がないといった感じでお茶を飲んでいて、おねえちゃんは離れた場所で仕事をしているみたいだ。

「あの二人またやってるの……」

 黄瀬楓夢きのせ ふうむさんと日紫喜怜太にしき れいたさん。 あの二人はいつもいがみあっているみたいだ。 正直、人の家にまできてケンカしないでほしいよね……。

「今日のケンカの原因はなんだ?」

 わたしは傍観しながら行く末を見守る。

「紅茶はミルクティーのほうが美味しいに決まっている」
「いえ、ロイヤルミルクティーのほうが美味しいですわ」

 ええ!? そんなことでいがみあってたの!? 申し訳ないけど、正直どうでもいいよ!

「ロイヤルミルクティーなんて手間が掛かるだけじゃないか!」
「その手間をかけての味がいいんですの! ミルクティーとは違い、ミルクの舌ざわりがいいんですの! ミルクティーはミルクを後から入れただけではありませんか!」
「逆にそのシンプルさがいいんじゃないか! ロイヤルミルクティーは逆に手間がかかり過ぎなんだよ! 時間の無駄じゃないか!」
「貴方みたいなせっかちメガネにはわかりませんわ! 手間暇をかけたからこそ味わえる至高の味が!」

 なんだろう、こだわりがあるのはわかるけど、すごくどうでもいい。 犬派か猫派ぐらいどうでもいい。

「ぼくはどっちもいいと思うよ」

 クウタくんが止めにはいった。

「どっちもいいじゃ納得出来ないんだよ。 じゃあ、クウタ、キミはどっちがいいんだい?」
「えーっと……」
「そうですわ! 緑風さん、はっきりさせてください」

 二人に言い寄られクウタくんはたじたじしてしまう。

「ぼくはストレートティーかな」

 第三勢力でちゃったよ!

 クウタくん、なんで勢力をさらに分断させちゃったの!?

「わたしはレモンティーかな」

 第四勢力もでちゃったよ!

 えっ!? 今、ミルクティーとロイヤルミルクティーの戦争だったよね!? 援軍くるところだったよね? なんでストレートティーとレモンティーの軍がやってきたの!?

「それと、ぼく、ミルクティーとロイヤルミルクティーのミルクの後味が苦手なんだよね」

 爆弾発言しちゃったよ!

「わかる。 わたしも飲んだあとのにおいもちょっと苦手だな」

 二連鎖!

「あ、でも、牛乳は嫌いじゃないから安心して」

 クウタくんはフォローをいれるけど、

 違う! クウタくんそうじゃないよ!

「うんうん、牛乳おいしいよね! あんぱんと食べるとおいしいよね!」

 アカリさんにいたってはもう牛乳の話になってるよ!

 もしかして、二人とも素で爆弾投下したの!?

「…………」

 クウタくんとアカリさんの天然返しに二人はポカンとする。

「なあ、ミズキ、キミはどうだい?」

 ニシキさんがおにいちゃんに聞く。

 おにいちゃんはコップをおくと静かに答える。

「飲めればなんでもいい」

 極論いちゃったよ。

「そうだね。 わたしもそう思うよ」

 すると、仕事をしていたおねえちゃんが手を止めてやってきた。

「むしろ個性がでていてわたしはいいと思うよ」
「個性?」
「そう、今の話だけで紅茶の飲み方や種類が四つもでたんだよ? つまり、キミたちの人それぞれのいいところ成らぬ、好みの味があるってことだよね」
「そうか! 『みんな違ってみんないい』ってことだね!」

(!?)

「うん、そうだね」
「じゃあ、みんなの好きな味を飲みあってみるってのはどうかな?」
「みんなのを?」
「飲みあう?」

 クウタくんがそう提案すると、ニシキさんとキノセさんは互いをみる。

「まあ、悪くないかもね」
「ワタクシ、今日はレモンティーの気分かもしれませんわね」
「じゃあ、わたしはストレートティーにお砂糖いれて飲むよ」
「それは微糖だよ」
「それじゃあ、おねえさんが気合をいれて淹れちゃうよ」


「………」

 さっきまでのギスギスした空気はどこへやら。

 わたしは微笑しながら、おねえちゃんがいろんな種類の紅茶を淹れているのを見守ると研究所を後にした。

 『みんな違ってみんないい』か……よく聞く言葉だけど、なんだか心に引っ掛かっていた。 当たり前のことに気付かされたから? それとも、わたしがなにも取り柄がないことに気付いてしまったから? なんでもそつなくこなす、言い換えれば『個性がない』ともいえる。 わたしはなにが出来て、なにが出来ないのか。 『彼女の周りには人が集まる』それがほんのすこしだけ理解が出来た気もしたけど謎も深まってしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

 女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】

m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。 その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする

伯爵家の次男に転生しましたが、10歳で当主になってしまいました

竹桜
ファンタジー
 自動運転の試験車両に轢かれて、死んでしまった主人公は異世界のランガン伯爵家の次男に転生した。  転生後の生活は順調そのものだった。  だが、プライドだけ高い兄が愚かな行為をしてしまった。  その結果、主人公の両親は当主の座を追われ、主人公が10歳で当主になってしまった。  これは10歳で当主になってしまった者の物語だ。

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

5歳で前世の記憶が混入してきた  --スキルや知識を手に入れましたが、なんで中身入ってるんですか?--

ばふぉりん
ファンタジー
 「啞"?!@#&〆々☆¥$€%????」   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜  五歳の誕生日を迎えた男の子は家族から捨てられた。理由は 「お前は我が家の恥だ!占星の儀で訳の分からないスキルを貰って、しかも使い方がわからない?これ以上お前を育てる義務も義理もないわ!」    この世界では五歳の誕生日に教会で『占星の儀』というスキルを授かることができ、そのスキルによってその後の人生が決まるといっても過言では無い。  剣聖 聖女 影朧といった上位スキルから、剣士 闘士 弓手といった一般的なスキル、そして家事 農耕 牧畜といったもうそれスキルじゃないよね?といったものまで。  そんな中、この五歳児が得たスキルは  □□□□  もはや文字ですら無かった ~~~~~~~~~~~~~~~~~  本文中に顔文字を使用しますので、できれば横読み推奨します。  本作中のいかなる個人・団体名は実在するものとは一切関係ありません。  

処理中です...