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第二章 木槿山の章

第19話 接触2

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「勝孝め、いけしゃあしゃあと! 腹立たしいことこの上ない! 自分で姫と橘を襲わせておいて何を今更」
「まあまあ、御家老様」
 憤懣ふんまんやるかたなしとばかりに勝孝への不満をぶちまける家老を小夜がなだめていると、そこに喜助が姫と共に戻って来た。   
「御家老様すいません、おいら早とちりしちまって」
「爺、わたくしは城から一歩も出ておりませぬゆえご安心を。して叔父上はなんと?」
 ホッと胸をなでおろしたのも束の間、勝孝の態度を思い出して家老は再び不機嫌になった。
「相変わらずじゃ。橘の葬儀の報告だというのにほんの一言も橘には触れず、姫の事ばかりを気にしておったわい」
「わたくしが顔を見せないから困っているのですね。わたくしが城にいるとわかれば必ず刺客を差し向ける。かと言ってわたくしが死んだことにするには、同じくらいの歳恰好の娘を一人かどわかしてわたくしの代わりに殺してしまうしかない。焼死体なら顔がわからないから、きっとそうするでしょう」
 地味に恐ろしいことをサラリという姫である。
「でもわたくしの安否がわからない今、下手に動いてあとからわたくしが出てくるのを恐れている。城にいるはずのわたくしの姿が見えなければ、叔父上様は苛立ってそのうちに尻尾を出すに違いありませぬ」
「現在、姫は橘のことで嘆き悲しみ床に臥せっていることになっておる。それでも勝孝は姫に会わせろと申しておるゆえ、橘の四十九日が明けるころに姫も顔を出した方が良いやもしれんな」
  姫はわかったというように静かに頷くと、今度は喜助を振り返った。
「そんなことよりも喜助、わたくしが町にいたというのはどういうことです?」
「それが……」
 喜助の話では、姫にそっくりの娘を松原屋の前で見かけたとのことだった。
 いつものように橘の情報がないかと町をウロウロしていると、みすぼらしい出で立ちをした姫によく似た娘が、少し年上くらいの少年と二人で歩いていたというのだ。
 驚いた喜助が声をかけようとしたところ、ちょうど松原屋のお嬢さんが店から飛び出してきて、それを追いかけて出てきた番頭が二人と話し始めてしまったため声をかけそびれてしまったということだ。
「まったく勝孝め、呼んでもいないのに奥書院までついて来おって。勝孝がおると気づかずに喜助が報告を始めてしまったゆえ、勝孝に聞かれてしもうたわ」
「すまねえ。おいらのせいで行方不明になってた姫様を、やっと町で見つけたみたいに思われちまった」
 部屋の隅で話を聞いていた小夜が「あ」と小さく声を上げた。
「どうしました、小夜?」
「いえ、その……もし勝孝さまがそう思われたのでしたら、姫様によく似た娘は姫様と勘違いされて勝孝さまに……」
「狙われる!」
 姫と喜助の声が重なった。
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