27 / 35
第二十七話 チート太一郎
しおりを挟む
待ちに待った放課後。今日は宇部がノリノリで太一郎にジェイコブチームのチャンバラを指示した。刀で戦うチャンバラを先に振りつけてしまえちゅー魂胆らしい。
またも新聞紙を丸めた刀と金棒を振り回しての立ち回りや。俺も猫になっていなかったら鬼の役で戦っとったんやろか。猫で良かった。
俺は一年一組では『癒し係』として定着しつつあったんで、あちこち行っては抱っこされとる。このクラスではこの行為を『イヌチャージ』と呼びよる。俺を吸ってるヤツもおるけど、お前が吸ってる猫は南雲太一やで。
昨日動きをつけたゾーイチームは自主的に集まってチャンバラの練習をしとる。綺麗に流れんと迫力出えへんよってな。
ペネロペチームとリアムチームのメンバーは、シラタマの指示でスポンジバットにイボイボをつけてそこにゴールドのアクリル絵の具を塗っとる。イボイボもスポンジやから当たっても痛とうない。あとは色が落ちんようにすれば大丈夫やが、アクリルやし落ちひんやろ。
ゾーイとジェイコブの持つ刀は、百均でプラスチック製の刀を買って来たらしく、刃の部分にアルミテープを貼って本物っぽくしとる。さすがに美術部のシラタマが本気出すとクオリティが半端ねえな。
「刀を左右に捌いて、そう、で、左手添えて正面の金棒を受ける! そこ、ユウヤ君は上から! ジェイコブは金棒を刀で受けたらそのまま腹に蹴りを入れて」
「俺蹴られんの?」
「蹴るふりです、客席はこっちなのでジェイコブが蹴ったふりをするんです」
「タイミングを合わせて俺が後ろにふっ飛べばいいんだな」
「たいみんぐ?」
「いい、いい、俺らが分かればそれでいい」
たしかにタイミングという言葉を説明している間にクールダウンしてまうわ。
「斬られたら倒れながら横にはけないと邪魔です、蕪月妹さん転がって!」
「は、はい!」
今日の太一郎の熱の入り方もだいぶ違う。本気でジェイコブを殺しに行っとるで。
「転がったら立って。背後から殴りつけましょう。ジェイコブは振り向きざまに胴を薙ぎますか」
と、そこに名倉の「太一!」という声が割り込んだ。ちょっと待て、名倉のヤツ太一郎のことを『南雲』じゃなくて『太一』ってファーストネームで呼びよった!
「少しやられようよ。強いばっかりじゃお客さんはつまんない。応援させないとね。ちょうどいい、そこのあんたユウヤだっけ、蹴られてひっくり返ったところから立て直しざまに上から金棒を振り下ろしてみな」
「拙者はやられたらいいのか」とジェイコブ。
「いや、ギリギリのところで避けな。で、避けたはずみで転ぶんだ。そこにユウヤが執拗に金棒で殴り掛かって来る。それを間一髪で躱しながら体勢を立て直す。太一、それで付けてみて。客席の向き、意識してね」
すげえな。ほんまもんの役者みたいや。ああ、ほんまもんやった。
「二回上手く躱して、三回目の時に脚を薙ぎますか」
ジェイコブは体を捻りながら移動し、新聞紙を丸めた刀でユウヤの脛の辺りを真横に払う。
「そう、上手い! 鬼は尻もちをつきましょう。あ、蕪月さん、危ないのでユウヤ君の後ろに立たないでください」
「あっ、ごめんなさい!」
これは姉の方か、妹の方か……。今日は水色のゴムが妹で黄緑のゴムが姉だな。
「ジェイコブ、飛びあがって上からユウヤ君を斬りつけましょう。ユウヤ君を殺す気で」
「いや、殺さないでくれ。マジで」
「ダイジョブ、これ、新聞紙。拙者手加減する」
「派手に飛び上がってダーンと凄い足音をさせたらそれっぽく見えますから」
ふと見ると、小道具を作ってた連中が太一郎と名倉の迫力に押されて手が止まっとる。まあ、あんなの見せられちゃなぁ。
その時、名倉がパンパンと手を叩いて立ち上がった。
「ちょっと休憩だよ。このままじゃ怪我しちまう。十五分休憩したらそれぞれに動きを確認して。太一はちょっとこっち来な。宇部もだよ」
蕪月妹は真っ先に俺を吸いに来た。「イヌ~。チャージさせて」って抱きしめられて、俺はちょっと困ったような嬉しいような、いや、猫で良かったでホンマ。
ぶっちゃけ蕪月姉妹はかわええ。シラタマみたいな芸能人顔とちゃうねんけど、素朴にかわええ。なんつーか美術部所属の図書委員みたいなノリや。こんな奥ゆかしい大和撫子系もわりと好みやな。って俺すでに猫やけど。
「蕪月、ちょっと来て、合わせようぜ」
ユウヤ要らん事言いなや、せっかくチャージしとんのに。
だが、彼らのやる気が凄い。名倉と太一郎と宇部がいなくても自分たちで流れの再確認しとる。監督三人の方は明日の手順を決めとるようや。
とりあえずこの日はジェイコブチームと、昨日流れを決めたゾーイチームの流れの決定で終わってしまった。通し稽古を金曜日にやると考えたら、ペネロペチームとリアムチームを明日だけでやっつけなければならない。太一郎は剣術はできるが空手と忍者が相手では何もできないだろう。名倉、どうする気なんや。
またも新聞紙を丸めた刀と金棒を振り回しての立ち回りや。俺も猫になっていなかったら鬼の役で戦っとったんやろか。猫で良かった。
俺は一年一組では『癒し係』として定着しつつあったんで、あちこち行っては抱っこされとる。このクラスではこの行為を『イヌチャージ』と呼びよる。俺を吸ってるヤツもおるけど、お前が吸ってる猫は南雲太一やで。
昨日動きをつけたゾーイチームは自主的に集まってチャンバラの練習をしとる。綺麗に流れんと迫力出えへんよってな。
ペネロペチームとリアムチームのメンバーは、シラタマの指示でスポンジバットにイボイボをつけてそこにゴールドのアクリル絵の具を塗っとる。イボイボもスポンジやから当たっても痛とうない。あとは色が落ちんようにすれば大丈夫やが、アクリルやし落ちひんやろ。
ゾーイとジェイコブの持つ刀は、百均でプラスチック製の刀を買って来たらしく、刃の部分にアルミテープを貼って本物っぽくしとる。さすがに美術部のシラタマが本気出すとクオリティが半端ねえな。
「刀を左右に捌いて、そう、で、左手添えて正面の金棒を受ける! そこ、ユウヤ君は上から! ジェイコブは金棒を刀で受けたらそのまま腹に蹴りを入れて」
「俺蹴られんの?」
「蹴るふりです、客席はこっちなのでジェイコブが蹴ったふりをするんです」
「タイミングを合わせて俺が後ろにふっ飛べばいいんだな」
「たいみんぐ?」
「いい、いい、俺らが分かればそれでいい」
たしかにタイミングという言葉を説明している間にクールダウンしてまうわ。
「斬られたら倒れながら横にはけないと邪魔です、蕪月妹さん転がって!」
「は、はい!」
今日の太一郎の熱の入り方もだいぶ違う。本気でジェイコブを殺しに行っとるで。
「転がったら立って。背後から殴りつけましょう。ジェイコブは振り向きざまに胴を薙ぎますか」
と、そこに名倉の「太一!」という声が割り込んだ。ちょっと待て、名倉のヤツ太一郎のことを『南雲』じゃなくて『太一』ってファーストネームで呼びよった!
「少しやられようよ。強いばっかりじゃお客さんはつまんない。応援させないとね。ちょうどいい、そこのあんたユウヤだっけ、蹴られてひっくり返ったところから立て直しざまに上から金棒を振り下ろしてみな」
「拙者はやられたらいいのか」とジェイコブ。
「いや、ギリギリのところで避けな。で、避けたはずみで転ぶんだ。そこにユウヤが執拗に金棒で殴り掛かって来る。それを間一髪で躱しながら体勢を立て直す。太一、それで付けてみて。客席の向き、意識してね」
すげえな。ほんまもんの役者みたいや。ああ、ほんまもんやった。
「二回上手く躱して、三回目の時に脚を薙ぎますか」
ジェイコブは体を捻りながら移動し、新聞紙を丸めた刀でユウヤの脛の辺りを真横に払う。
「そう、上手い! 鬼は尻もちをつきましょう。あ、蕪月さん、危ないのでユウヤ君の後ろに立たないでください」
「あっ、ごめんなさい!」
これは姉の方か、妹の方か……。今日は水色のゴムが妹で黄緑のゴムが姉だな。
「ジェイコブ、飛びあがって上からユウヤ君を斬りつけましょう。ユウヤ君を殺す気で」
「いや、殺さないでくれ。マジで」
「ダイジョブ、これ、新聞紙。拙者手加減する」
「派手に飛び上がってダーンと凄い足音をさせたらそれっぽく見えますから」
ふと見ると、小道具を作ってた連中が太一郎と名倉の迫力に押されて手が止まっとる。まあ、あんなの見せられちゃなぁ。
その時、名倉がパンパンと手を叩いて立ち上がった。
「ちょっと休憩だよ。このままじゃ怪我しちまう。十五分休憩したらそれぞれに動きを確認して。太一はちょっとこっち来な。宇部もだよ」
蕪月妹は真っ先に俺を吸いに来た。「イヌ~。チャージさせて」って抱きしめられて、俺はちょっと困ったような嬉しいような、いや、猫で良かったでホンマ。
ぶっちゃけ蕪月姉妹はかわええ。シラタマみたいな芸能人顔とちゃうねんけど、素朴にかわええ。なんつーか美術部所属の図書委員みたいなノリや。こんな奥ゆかしい大和撫子系もわりと好みやな。って俺すでに猫やけど。
「蕪月、ちょっと来て、合わせようぜ」
ユウヤ要らん事言いなや、せっかくチャージしとんのに。
だが、彼らのやる気が凄い。名倉と太一郎と宇部がいなくても自分たちで流れの再確認しとる。監督三人の方は明日の手順を決めとるようや。
とりあえずこの日はジェイコブチームと、昨日流れを決めたゾーイチームの流れの決定で終わってしまった。通し稽古を金曜日にやると考えたら、ペネロペチームとリアムチームを明日だけでやっつけなければならない。太一郎は剣術はできるが空手と忍者が相手では何もできないだろう。名倉、どうする気なんや。
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説

秘密
阿波野治
児童書・童話
住友みのりは憂うつそうな顔をしている。心配した友人が事情を訊き出そうとすると、みのりはなぜか声を荒らげた。後ろの席からそれを見ていた香坂遥斗は、みのりが抱えている謎を知りたいと思い、彼女に近づこうとする。
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。
【総集編】日本昔話 パロディ短編集
Grisly
児童書・童話
❤️⭐️お願いします。
今まで発表した
日本昔ばなしの短編集を、再放送致します。
朝ドラの総集編のような物です笑
読みやすくなっているので、
⭐️して、何度もお読み下さい。
読んだ方も、読んでない方も、
新しい発見があるはず!
是非お楽しみ下さい😄
⭐︎登録、コメント待ってます。
荒川ハツコイ物語~宇宙から来た少女と過ごした小学生最後の夏休み~
釈 余白(しやく)
児童書・童話
今より少し前の時代には、子供らが荒川土手に集まって遊ぶのは当たり前だったらしい。野球をしたり凧揚げをしたり釣りをしたり、時には決闘したり下級生の自転車練習に付き合ったりと様々だ。
そんな話を親から聞かされながら育ったせいなのか、僕らの遊び場はもっぱら荒川土手だった。もちろん小学生最後となる六年生の夏休みもいつもと変わらず、いつものように幼馴染で集まってありきたりの遊びに精を出す毎日である。
そして今日は鯉釣りの予定だ。今まで一度も釣り上げたことのない鯉を小学生のうちに釣り上げるのが僕、田口暦(たぐち こよみ)の目標だった。
今日こそはと強い意気込みで釣りを始めた僕だったが、初めての鯉と出会う前に自分を宇宙人だと言う女子、ミクに出会い一目で恋に落ちてしまった。だが夏休みが終わるころには自分の星へ帰ってしまうと言う。
かくして小学生最後の夏休みは、彼女が帰る前に何でもいいから忘れられないくらいの思い出を作り、特別なものにするという目的が最優先となったのだった。
はたして初めての鯉と初めての恋の両方を成就させることができるのだろうか。
鎌倉西小学校ミステリー倶楽部
澤田慎梧
児童書・童話
【「鎌倉猫ヶ丘小ミステリー倶楽部」に改題して、アルファポリスきずな文庫より好評発売中!】
https://kizuna.alphapolis.co.jp/book/11230
【「第1回きずな児童書大賞」にて、「謎解きユニーク探偵賞」を受賞】
市立「鎌倉西小学校」には不思議な部活がある。その名も「ミステリー倶楽部」。なんでも、「学校の怪談」の正体を、鮮やかに解明してくれるのだとか……。
学校の中で怪奇現象を目撃したら、ぜひとも「ミステリー倶楽部」に相談することをオススメする。
案外、つまらない勘違いが原因かもしれないから。
……本物の「お化け」や「妖怪」が出てくる前に、相談しに行こう。
※本作品は小学校高学年以上を想定しています。作中の漢字には、ふりがなが多く振ってあります。
※本作品はフィクションです。実在の人物・団体とは一切関係ありません。
※本作品は、三人の主人公を描いた連作短編です。誰を主軸にするかで、ジャンルが少し変化します。
※カクヨムさんにも投稿しています(初出:2020年8月1日)
ヴァンパイアハーフにまもられて
クナリ
児童書・童話
中学二年の凛は、文芸部に所属している。
ある日、夜道を歩いていた凛は、この世ならぬ領域に踏み込んでしまい、化け物に襲われてしまう。
そこを助けてくれたのは、ツクヨミと名乗る少年だった。
ツクヨミに従うカラス、ツクヨミの「妹」だという幽霊、そして凛たちに危害を加えようとする敵の怪異たち。
ある日突然少女が非日常の世界に入り込んだ、ホラーファンタジーです。
フラワーキャッチャー
東山未怜
児童書・童話
春、中学1年生の恵梨は登校中、車に轢かれそうになったところを転校生・咲也(さくや)に突き飛ばされて助けられる。
実は咲也は花が絶滅した魔法界に花を甦らせるため、人の心に咲く花を集めに人間界にやってきた、「フラワーキャッチャー」だった。
けれど助けられたときに、咲也の力は恵梨に移ってしまった。
これからは恵梨が咲也の代わりに、人の心の花を集めることが使命だと告げられる。
恵梨は魔法のペンダントを預けられ、戸惑いながらもフラワーキャッチャーとしてがんばりはじめる。
お目付け役のハチドリ・ブルーベルと、ケンカしつつも共に行動しながら。
クラスメートの女子・真希は、恵梨の親友だったものの、なぜか小学4年生のあるときから恵梨に冷たくなった。さらには、咲也と親しげな恵梨をライバル視する。
合唱祭のピアノ伴奏に決まった恵梨の友人・奏子(そうこ)は、飼い猫が死んだ悲しみからピアノが弾けなくなってしまって……。
児童向けのドキワクな現代ファンタジーを、お楽しみいただけたら♪
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる