21 / 35
第二十一話 留学生、濃いわ
しおりを挟む
それから一週間が過ぎた。もう七月や。
あいつらもともと頭が良かったんやろな。驚いたことに、名倉も太一郎も凄まじい勢いで今の文化を吸収し、勉強の方もどんどん理解してみんなをゴボウ抜きにして行きよった。
大体な、あいつら『マイナス』とか知らんかってんで? 時計の読み方も温度計の見方もなんもわからんかったんやで? それが今じゃ負の記号がついた四則演算が誰より早いとかおかしいやろ。
太一郎の方はお店(お店と書いて「おたな」と読むらしい)の勘定を一手に引き受けてたらしいが、まあそれは今でいう経理のこっちゃろな。数字に関しては得意や言うとったが、経理は文系、数学は理系、どっちなんやろな。
そんで名倉の方は女優さんやしな。暗記が得意やねんな。せやし、英語がいきなりダントツの成績になってもーて、これもしかしてフツーに通訳できんじゃね? んなこたぁないか。
そんで今日や。留学生が来よった。四人や。午後一の全校集会では、彼らが一年一組に入って文化祭にも参加するいうことを校長が軽く紹介しただけやった。
それがどやねん、クラスのホームルームで自己紹介した彼らは、普通に日本語喋っとった。日本文化に興味があって、日本語もそれなりに話せる子だけが選ばれたようや。
そりゃあそうやんな、受け入れ側やってほとんど英語なんぞ喋られへんようなのばっかやしな。少しくらい日本語話してもらわへんとな。
最初にすげえ体格のいいヤツが自己紹介した。ぶっちゃけ俺(今は太一郎)よりデカい。バスケ選手みたいな感じの白人で、目と髪はブロンズやが、めっちゃ短く切っとる。
「こんにちは。僕の名前はリアム・テイラーです。リアムと呼んでください。僕の父はトコタの工場で車を作っています。うちの車も父が作ったトコタ車です。妹がいます。好きなものは日本のアニメとゲームです。特に猫シュミが得意です。空手をやっています」
トコタ車に空手に猫シュミとは恐れ入る。ガチの日本マニアだ。いっそ名倉や太一郎より詳しいんちゃうか?
次も男子だが、こっちは黒人だ。コイツも背が高いが、リアムのようにガタイがいい感じじゃなくてどちらかというとひょろっとスマートだ。黒人のマラソン選手とか短距離の選手にいそうだ。ドレッドヘアを後ろで一つに束ねとる。既にちょんまげや。
「コニチハ。ジェイコブ・トンプソンです。拙者はアフリカ系の父とアメリカ人の母のハーフです。日本の浮世絵が好きです。サムライになりたくて、髪を志士髷にしました。フェイクの刀をたくさん集めています」
名倉が太一郎に耳打ちしとるのが聞こえる。
「随分と背の高いお侍さんだねぇ。シシマゲってのは知らないけど」
「総髪のことのようですね」
ここで反対側から宇部が首を伸ばしよった。
「幕末の……ああ、ええと、江戸幕府が終わるころの侍の髪型だよ。戊辰戦争ってのがあってさ、これから戦いに行くのにのんびり髷なんか結ってられないって」
なんや宇部、妙に詳しいな。時代劇ファンつっても幕末まで網羅しとるな。こいつ。
「確かに戦を前に月代剃ってる暇なんかありませんからね」
「にゃ?」
俺が「サカヤキって何?」という顔で宇部の方を向くと「月代ってのはチョンマゲ結う時に頭のてっぺん剃ること」って教えてくれる。さすが宇部は物知りやな。
それにしても黒人がドレッドヘアを後ろで束ねて志士髷ってきっぱり言い切るのもなんやカッコええな。しかも『拙者』やて。
次は女子や。この子も黒人やが背ぇは小っさい。チリチリの黒髪を短くカットしとる。少年のようにも見えるな。
「私の名前はペネロペ。ペネロペ・クラーク。忍者に憧れて、ニンジャ・ワークショップに毎週通ってるの。まだ本物の手裏剣には触ったことがないけど、折り紙で作った手裏剣におもりを入れて毎日投げてるわ。今は鎖分銅の練習中。これができるようになったら次は鎖鎌をやりたいんだけど、危なくってやらせてもらえないの。家は園芸家で、バラやクレマチスを交配して新しい品種を作り出しているのよ。だから庭で私が手裏剣を投げるとすごく怒られるわ。忍者に詳しい人、いろいろ教えてね」
どうやらこの子が一番日本語が流暢に話せるらしいな。それでもさすがにアメリカ人だけあって、身振り手振りが半端ねえ。
最後も女子。こっちは白人で、ウェーヴのかかった金髪が肩にかかっとる。スレンダー美人さんや。
「ハジメマシテ……でいいの? OK? ワタシはゾーイ・ジャクソンです。日本のゲーム、面白い、大好きネ。いつも剣士ソルジャー使う。カタナソード持つの好き。エクスカリバーよりはムラマサの方がずっとカコイイね。好きなサムライいるよ。ミヤモトムサシ。ササキコジロウ。ガンリュージマね。ヨロシク」
彼女が一番日本語が怪しい。めっちゃ美人やが、コミュニケーションはヤバそうや。ペネロペがそばに付いてるのはそういう訳やな。
そして四人の自己紹介が終わったところで先生が恐ろしいことを言ったんや。
「早速だが、文化祭の出し物について教えてやってくれ」
あいつらもともと頭が良かったんやろな。驚いたことに、名倉も太一郎も凄まじい勢いで今の文化を吸収し、勉強の方もどんどん理解してみんなをゴボウ抜きにして行きよった。
大体な、あいつら『マイナス』とか知らんかってんで? 時計の読み方も温度計の見方もなんもわからんかったんやで? それが今じゃ負の記号がついた四則演算が誰より早いとかおかしいやろ。
太一郎の方はお店(お店と書いて「おたな」と読むらしい)の勘定を一手に引き受けてたらしいが、まあそれは今でいう経理のこっちゃろな。数字に関しては得意や言うとったが、経理は文系、数学は理系、どっちなんやろな。
そんで名倉の方は女優さんやしな。暗記が得意やねんな。せやし、英語がいきなりダントツの成績になってもーて、これもしかしてフツーに通訳できんじゃね? んなこたぁないか。
そんで今日や。留学生が来よった。四人や。午後一の全校集会では、彼らが一年一組に入って文化祭にも参加するいうことを校長が軽く紹介しただけやった。
それがどやねん、クラスのホームルームで自己紹介した彼らは、普通に日本語喋っとった。日本文化に興味があって、日本語もそれなりに話せる子だけが選ばれたようや。
そりゃあそうやんな、受け入れ側やってほとんど英語なんぞ喋られへんようなのばっかやしな。少しくらい日本語話してもらわへんとな。
最初にすげえ体格のいいヤツが自己紹介した。ぶっちゃけ俺(今は太一郎)よりデカい。バスケ選手みたいな感じの白人で、目と髪はブロンズやが、めっちゃ短く切っとる。
「こんにちは。僕の名前はリアム・テイラーです。リアムと呼んでください。僕の父はトコタの工場で車を作っています。うちの車も父が作ったトコタ車です。妹がいます。好きなものは日本のアニメとゲームです。特に猫シュミが得意です。空手をやっています」
トコタ車に空手に猫シュミとは恐れ入る。ガチの日本マニアだ。いっそ名倉や太一郎より詳しいんちゃうか?
次も男子だが、こっちは黒人だ。コイツも背が高いが、リアムのようにガタイがいい感じじゃなくてどちらかというとひょろっとスマートだ。黒人のマラソン選手とか短距離の選手にいそうだ。ドレッドヘアを後ろで一つに束ねとる。既にちょんまげや。
「コニチハ。ジェイコブ・トンプソンです。拙者はアフリカ系の父とアメリカ人の母のハーフです。日本の浮世絵が好きです。サムライになりたくて、髪を志士髷にしました。フェイクの刀をたくさん集めています」
名倉が太一郎に耳打ちしとるのが聞こえる。
「随分と背の高いお侍さんだねぇ。シシマゲってのは知らないけど」
「総髪のことのようですね」
ここで反対側から宇部が首を伸ばしよった。
「幕末の……ああ、ええと、江戸幕府が終わるころの侍の髪型だよ。戊辰戦争ってのがあってさ、これから戦いに行くのにのんびり髷なんか結ってられないって」
なんや宇部、妙に詳しいな。時代劇ファンつっても幕末まで網羅しとるな。こいつ。
「確かに戦を前に月代剃ってる暇なんかありませんからね」
「にゃ?」
俺が「サカヤキって何?」という顔で宇部の方を向くと「月代ってのはチョンマゲ結う時に頭のてっぺん剃ること」って教えてくれる。さすが宇部は物知りやな。
それにしても黒人がドレッドヘアを後ろで束ねて志士髷ってきっぱり言い切るのもなんやカッコええな。しかも『拙者』やて。
次は女子や。この子も黒人やが背ぇは小っさい。チリチリの黒髪を短くカットしとる。少年のようにも見えるな。
「私の名前はペネロペ。ペネロペ・クラーク。忍者に憧れて、ニンジャ・ワークショップに毎週通ってるの。まだ本物の手裏剣には触ったことがないけど、折り紙で作った手裏剣におもりを入れて毎日投げてるわ。今は鎖分銅の練習中。これができるようになったら次は鎖鎌をやりたいんだけど、危なくってやらせてもらえないの。家は園芸家で、バラやクレマチスを交配して新しい品種を作り出しているのよ。だから庭で私が手裏剣を投げるとすごく怒られるわ。忍者に詳しい人、いろいろ教えてね」
どうやらこの子が一番日本語が流暢に話せるらしいな。それでもさすがにアメリカ人だけあって、身振り手振りが半端ねえ。
最後も女子。こっちは白人で、ウェーヴのかかった金髪が肩にかかっとる。スレンダー美人さんや。
「ハジメマシテ……でいいの? OK? ワタシはゾーイ・ジャクソンです。日本のゲーム、面白い、大好きネ。いつも剣士ソルジャー使う。カタナソード持つの好き。エクスカリバーよりはムラマサの方がずっとカコイイね。好きなサムライいるよ。ミヤモトムサシ。ササキコジロウ。ガンリュージマね。ヨロシク」
彼女が一番日本語が怪しい。めっちゃ美人やが、コミュニケーションはヤバそうや。ペネロペがそばに付いてるのはそういう訳やな。
そして四人の自己紹介が終わったところで先生が恐ろしいことを言ったんや。
「早速だが、文化祭の出し物について教えてやってくれ」
1
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
児童絵本館のオオカミ
火隆丸
児童書・童話
閉鎖した児童絵本館に放置されたオオカミの着ぐるみが語る、数々の思い出。ボロボロの着ぐるみの中には、たくさんの人の想いが詰まっています。着ぐるみと人との間に生まれた、切なくも美しい物語です。
【完】ことうの怪物いっか ~夏休みに親子で漂流したのは怪物島!? 吸血鬼と人造人間に育てられた女の子を救出せよ! ~
丹斗大巴
児童書・童話
どきどきヒヤヒヤの夏休み!小学生とその両親が流れ着いたのは、モンスターの住む孤島!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
夏休み、家族で出掛けた先でクルーザーが転覆し、漂流した青山親子の3人。とある島に流れ着くと、古風で顔色の悪い外国人と、大怪我を負ったという気味の悪い執事、そしてあどけない少女が住んでいた。なんと、彼らの正体は吸血鬼と、その吸血鬼に作られた人造人間! 人間の少女を救い出し、無事に島から脱出できるのか……!?
*☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆* *☆*
家族のきずなと種を超えた友情の物語。
おっとりドンの童歌
花田 一劫
児童書・童話
いつもおっとりしているドン(道明寺僚) が、通学途中で暴走車に引かれてしまった。
意識を失い気が付くと、この世では見たことのない奇妙な部屋の中。
「どこ。どこ。ここはどこ?」と自問していたら、こっちに雀が近づいて来た。
なんと、その雀は歌をうたい狂ったように踊って(跳ねて)いた。
「チュン。チュン。はあ~。らっせーら。らっせいら。らせらせ、らせーら。」と。
その雀が言うことには、ドンが死んだことを(津軽弁や古いギャグを交えて)伝えに来た者だという。
道明寺が下の世界を覗くと、テレビのドラマで観た昔話の風景のようだった。
その中には、自分と瓜二つのドン助や同級生の瓜二つのハナちゃん、ヤーミ、イート、ヨウカイ、カトッぺがいた。
みんながいる村では、ヌエという妖怪がいた。
ヌエとは、顔は鬼、身体は熊、虎の手や足をもち、何とシッポの先に大蛇の頭がついてあり、人を食べる恐ろしい妖怪のことだった。
ある時、ハナちゃんがヌエに攫われて、ドン助とヤーミがヌエを退治に行くことになるが、天界からドラマを観るように楽しんで鑑賞していた道明寺だったが、道明寺の体は消え、意識はドン助の体と同化していった。
ドン助とヤーミは、ハナちゃんを救出できたのか?恐ろしいヌエは退治できたのか?
放課後モンスタークラブ
まめつぶいちご
児童書・童話
タイトル変更しました!20230704
------
カクヨムの児童向け異世界転移ファンタジー応募企画用に書いた話です。
・12000文字以内
・長編に出来そうな種を持った短編
・わくわくする展開
というコンセプトでした。
こちらにも置いておきます。
評判が良ければ長編として続き書きたいです。
長編時のプロットはカクヨムのあらすじに書いてあります
---------
あらすじ
---------
「えええ?! 私! 兎の獣人になってるぅー!?」
ある日、柚乃は旧図書室へ消えていく先生の後を追って……気が付いたら異世界へ転移していた。
見たこともない光景に圧倒される柚乃。
しかし、よく見ると自分が兎の獣人になっていることに気付く。
忠犬ハジッコ
SoftCareer
児童書・童話
もうすぐ天寿を全うするはずだった老犬ハジッコでしたが、飼い主である高校生・澄子の魂が、偶然出会った付喪神(つくもがみ)の「夜桜」に抜き去られてしまいます。
「夜桜」と戦い力尽きたハジッコの魂は、犬の転生神によって、抜け殻になってしまった澄子の身体に転生し、奪われた澄子の魂を取り戻すべく、仲間達の力を借りながら奮闘努力する……というお話です。
※今まで、オトナ向けの小説ばかり書いておりましたが、
今回は中学生位を読者対象と想定してチャレンジしてみました。
お楽しみいただければうれしいです。

こちら御神楽学園心霊部!
緒方あきら
児童書・童話
取りつかれ体質の主人公、月城灯里が霊に憑かれた事を切っ掛けに心霊部に入部する。そこに数々の心霊体験が舞い込んでくる。事件を解決するごとに部員との絆は深まっていく。けれど、彼らにやってくる心霊事件は身の毛がよだつ恐ろしいものばかりで――。
灯里は取りつかれ体質で、事あるごとに幽霊に取りつかれる。
それがきっかけで学校の心霊部に入部する事になったが、いくつもの事件がやってきて――。
。
部屋に異音がなり、主人公を怯えさせる【トッテさん】。
前世から続く呪いにより死に導かれる生徒を救うが、彼にあげたお札は一週間でボロボロになってしまう【前世の名前】。
通ってはいけない道を通り、自分の影を失い、荒れた祠を修復し祈りを捧げて解決を試みる【竹林の道】。
どこまでもついて来る影が、家まで辿り着いたと安心した主人公の耳元に突然囁きかけてさっていく【楽しかった?】。
封印されていたものを解き放つと、それは江戸時代に封じられた幽霊。彼は門吉と名乗り主人公たちは土地神にするべく扱う【首無し地蔵】。
決して話してはいけない怪談を話してしまい、クラスメイトの背中に危険な影が現れ、咄嗟にこの話は嘘だったと弁明し霊を払う【嘘つき先生】。
事故死してさ迷う亡霊と出くわしてしまう。気付かぬふりをしてやり過ごすがすれ違い様に「見えてるくせに」と囁かれ襲われる【交差点】。
ひたすら振返らせようとする霊、駅まで着いたがトンネルを走る窓が鏡のようになり憑りついた霊の禍々しい姿を見る事になる【うしろ】。
都市伝説の噂を元に、エレベーターで消えてしまった生徒。記憶からさえもその存在を消す神隠し。心霊部は総出で生徒の救出を行った【異世界エレベーター】。
延々と名前を問う不気味な声【名前】。
10の怪異譚からなる心霊ホラー。心霊部の活躍は続いていく。

湯本の医者と悪戯河童
関シラズ
児童書・童話
赤岩村の医者・湯本開斎は雨降る晩に、出立橋の上で河童に襲われるが……
*
群馬県の中之条町にあった旧六合村(クニムラ)をモチーフに構想した物語です。
稲の精しーちゃんと旅の僧
MIKAN🍊
児童書・童話
「しーちゃん!しーちゃん!」と連呼しながら野原を駆け回る掌サイズの小さな女の子。その正体は五穀豊穣の神の使いだった。
四季を通して紡がれる、稲の精しーちゃんと若き旅の僧の心温まる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる