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「やあ、モレイラ。」
初老の紳士がモレイラを見つけて声を掛けてきた。
モレイラが軽く手を上げた。
頃合だ。ジェフは彼女の元を離れた。
ついでのように、今しがた教えて貰った御曹司に目をやった。
そこには彼の姿はなく、取り巻きの中に居たリーダーらしき男が何人かの女性の相手をしていた。
シルビアも見当たらない。多分御曹司を探しているのだろうとジェフは独りで合点した。
ーーとりあえずあと一時間もすれば自分はお役御免。さっさとアパートに戻って眠りたい。
リーダー格の男の元に切れること無くやって来る男女。
だが微かに聞こえてくる内容は決して色気のある話ではなく……どうやら商談しているようだった。
ーーSPかと思ったけど……秘書だったのか。
さして興味もないジェフはそのまま会場を出てレストルームに向かった。
会場の近くのレストルームは混雑していたので一つ階を上がったところに向かった。
下の階の喧噪もあまり響かないフロアは足の長い絨毯が靴に纏わり付いた。
ーーあった。
下の階とほぼ同じ位置にあるレストルームは思った通り静かだった。
入ろうとした瞬間、黒い塊がレストルームから飛び出してきた。慌てて躱して衝突を防ぐ。
黒い塊がくぐもった声で「失礼」と言い捨て、階段を駆け下りて行った。
ーーあれってもしかして……
顔を一度も挙げず終いだったが華奢な体つきと黒ずくめの服は多分、彼だろうと推察した。
という事はシルビアは未だ空振りという事か、とジェフは独りごちた。
ーーそれにしても、あの香り。フローラル系の香水かな。男にしては甘ったるいのつけてるよな。
そのくせジェフはその香りにどことなく懐かしさを感じた。そしてそれはつい今朝方嗅いだ匂いだと気が付いた。
レストルームに入ると、確かめるようにジェフは鼻をクスンと鳴らした。
甘い、そしてどことなく青臭い花の香りが決して広くない空間を満たしている。
ーー百合の匂い、か。
ジェフは洗面台に手をつき、鏡に写る自分の顔を睨むように見つめた。
「百合……リリー」
思わず口から出た名前にジェフ自身が戦慄した。
初老の紳士がモレイラを見つけて声を掛けてきた。
モレイラが軽く手を上げた。
頃合だ。ジェフは彼女の元を離れた。
ついでのように、今しがた教えて貰った御曹司に目をやった。
そこには彼の姿はなく、取り巻きの中に居たリーダーらしき男が何人かの女性の相手をしていた。
シルビアも見当たらない。多分御曹司を探しているのだろうとジェフは独りで合点した。
ーーとりあえずあと一時間もすれば自分はお役御免。さっさとアパートに戻って眠りたい。
リーダー格の男の元に切れること無くやって来る男女。
だが微かに聞こえてくる内容は決して色気のある話ではなく……どうやら商談しているようだった。
ーーSPかと思ったけど……秘書だったのか。
さして興味もないジェフはそのまま会場を出てレストルームに向かった。
会場の近くのレストルームは混雑していたので一つ階を上がったところに向かった。
下の階の喧噪もあまり響かないフロアは足の長い絨毯が靴に纏わり付いた。
ーーあった。
下の階とほぼ同じ位置にあるレストルームは思った通り静かだった。
入ろうとした瞬間、黒い塊がレストルームから飛び出してきた。慌てて躱して衝突を防ぐ。
黒い塊がくぐもった声で「失礼」と言い捨て、階段を駆け下りて行った。
ーーあれってもしかして……
顔を一度も挙げず終いだったが華奢な体つきと黒ずくめの服は多分、彼だろうと推察した。
という事はシルビアは未だ空振りという事か、とジェフは独りごちた。
ーーそれにしても、あの香り。フローラル系の香水かな。男にしては甘ったるいのつけてるよな。
そのくせジェフはその香りにどことなく懐かしさを感じた。そしてそれはつい今朝方嗅いだ匂いだと気が付いた。
レストルームに入ると、確かめるようにジェフは鼻をクスンと鳴らした。
甘い、そしてどことなく青臭い花の香りが決して広くない空間を満たしている。
ーー百合の匂い、か。
ジェフは洗面台に手をつき、鏡に写る自分の顔を睨むように見つめた。
「百合……リリー」
思わず口から出た名前にジェフ自身が戦慄した。
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