旦那様は甘かった

松石 愛弓

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「今朝、家を出る時までのフィリオの様子はどうだった?」

 王子様に訊かれ、私は慎重に思い出します。

「昨夜も、今朝も、いつも通り、普通でした」

 それを聞いて、王子様はホッとされたようです。

「では、魅了の魔法をかけられたのは、先程。ピンクブロンドの部屋に入った後ということになる。それなら、まだふたりの間には何も無いだろう。よかったな」

「はい」

 旦那様の潔白が分かって、私も心底ホッとしたのでした。



 フランク王子様は旦那様(フィリオ)に近付くと、手のひらを旦那様の額にかざし、魔力を送っているようでした。

 ほどなくして、旦那様にかけられていた魅了の魔法は解けたのです。

 旦那様は私を見るなり、「マリア…」と呼びながら駆け寄ろうとしましたが、王子様にがしっと腕を掴まれ、阻まれたのでした。


「なぜ、ピンクブロンドの部屋へ行った…?」

 王子様の低い冷たい声が、旦那様の耳元で響きます。

 申し訳なさそうに振り向くと、旦那様は王子様に頭を下げました。

「すみません。マリアをイメージしたネックレスのデザイン画が家にたくさんあるから見に来て選んでほしいと言われて…。マリア、悪かった。許してくれ。こんなことになるなんて思わなかったんだ…」

 真顔で答える旦那様。嘘をついてはいないようです。

「だからって簡単に連いていくのか? 女性の一人暮らしの部屋へ?」

 王子様が呆れています。

 私も、プツッと切れてしまいました。

「旦那様は考えが甘いのです! ピンキーの企みも想像できなかったのですか? フランク王子様に偶然会えなかったら、どうなっていたことやら! 旦那様は、甘かった!」

 普段、怒ることなどない私の怒号に、旦那様は驚きを隠せません。

「マッ……マリア! もしかして、タイトルの〈旦那様は甘かった〉の意味は、〈旦那様は甘くてイイ男♪〉という意味ではなく、〈詰めが甘い男〉という意味だったのか~~っ?!」

「いつの間にやら、そんなことに」

「くうぅっ!」

 くやしがる旦那様の肩をポンと叩き、王子様が言いました。

「マリアは私の大切な友人だ。2度と彼女を泣かせたら許さないぞ」

「!! はいっ! 以後、気を付けます!」

 平身低頭な旦那様。

 もう1度、あなたを信じてみようと思います。





 数日後。

「マリア。今日は何の日でしょう?」

 悪戯っぽく笑う旦那様。少年ぽくて可愛いですわ。

「私たちの誕生日」

「正解! まずは一つ目の誕生日プレゼント。このドレスを着て」

 旦那様は侍女にドレスを渡し、私を部屋まで送ってくれました。

 大きな綺麗な箱を開ければ、旦那様の瞳の色と同じ蒼い素敵なドレスが入っていました。

 部屋のドアを開けると、外出着に着替えて待っていてくれた旦那様が跪き、私の手にキスを落としながら、

「今日はマリアに忘れられない1日をプレゼントするよ」と囁いて、

 微笑みながらそっと手を引き、馬車へとエスコートしてくれるのでした。

「綺麗だよ」

 旦那様の振り向き様の秋波に、甘く爽やかな声に、胸がキュンと高鳴ります。

 やっぱり、

 旦那様は甘い果実のような人でした。
 















 end













 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
 毎日、しおりをはさんでくださる方がおられて嬉しかったです。
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