本当の貴方

松石 愛弓

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 ☆エリオット視点


 アリシアと婚約破棄した後、僕は父の部屋へ呼ばれた。

「エリオット、どういうつもりなのだ」
 不機嫌な父と、

「アリシア嬢は綺麗で気立ての良い令嬢じゃないの。ドワーヌ伯爵家は有力貴族だし、つながりを持つことは我が伯爵家にも有益になるはずだったのに…」
 残念がる母と、とりあえず参加の弟が、ソファに座って待っていた。

「父上、母上、すみませんでした。私はターニャ・ロンド嬢と結婚し、彼女の家に婿入りしようと思っています。ターニャ嬢は私をとても愛してくれていて、彼女から求婚してくれました。ロンド伯爵領には金鉱山があり、豊かな資源に恵まれています。この伯爵家を弟のエリックが継げば、エリックも安泰で、父上母上も安心してくださると思ったのです」

 家族を思いやるような僕の言葉に、弟が目の色を変えた。
「本当ですか? 兄上! 僕に、この伯爵家を継がせてくださるのですか?」

 エリックは勢いよく、ソファから立ち上がった。
「僕は次男で家督が継げないし、この先どうしていこうかとずっと悩んでいました。 この伯爵家を継げるなんて、夢みたいだ! 兄上、ありがとうございます。 あぁ、兄上の気が変わらないうちに婚約してしまおう。 花嫁探しに行ってきま~す!」

 弟は大喜びで部屋を飛び出していった。

「まぁ、エリックったら、あんなに喜んで。 私もエリックの将来を心配していたから嬉しいけれど、まさかエリオットが婿入りしたいと言い出すなんて…」
 母上は不思議そうに僕を見て、

「よほど、ターニャ嬢に惹かれているのだな」
 父上は感心していた。

 まぁ…逆玉だからね。

 ターニャ嬢は、以前から僕に気があるようだった。
 教室でも、廊下を歩いている時も、僕を熱っぽく見つめていた。

 銀色の長い髪に蒼い瞳の小悪魔のような可愛らしい令嬢。ちょっと我儘なところもあるけど、そこがまた可愛い。
 なにより、僕を好きだと言ってくれるし、自分から腕を絡めてきたり積極的だ。
 いつも少し距離を置いて受け身の大人しいアリシアが、物足りなく思えるほどに。

 でも、僕はアリシアと婚約中だったし、ターニャがアリシアの目を盗んで僕に接近アプローチしてきても、それだけのことで終わるんだろうと思っていた。刹那的な秘密の恋だと。

 それが、数日前、突然ターニャは僕に求婚してきた。
 金鉱山から大量の金が採れるから、あなたは何もしなくても一生贅沢させてあげると。何でも好きなようにして構わないと。
 そんな美味しい話を、僕は逃すことなどできなかった。

 金色の長い巻き髪に紫色の瞳をしたアリシアはお人形のように可愛いけど、僕に夢中というわけでもない。
 僕の伯爵領ではブドウの栽培をし、ワインを造って利益を出しているが、天候の良し悪しでブドウの収穫量やワインの味が変わるし、他にも自衛団の管理や、山のような書類に目を通さないといけないし、結構忙しい。
 
 ターニャと結婚すれば、贅沢して、好きなことだけやって、気楽に暮らせるんだ。

 アリシアには悪いが、僕の幸せのために犠牲になってもらうよ。
 
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