本当の貴方

松石 愛弓

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 セイル様の背中でゴキゲンで歌っていたテンでしたが、

『あっ、美味しそうな実がなってる! 味見してくるね!』

 ピョ~ン!とセイル様の背中から飛びおりると、楽しそうに森に向かって走っていってしまいました。

 無邪気で可愛い後ろ姿を見送りながら、はたと我に返った私は、慌ててセイル様から離れます。

「すみませんっ! とても綺麗な手をしてらしたのでつい無意識に触れてしまって…」

 真っ赤な茹で蛸のような私は、必死で言い訳するのでした。

「無意識…ですか?」

 深緑の切れ長の目が、私を捉えて。

 甘い魅惑的な声が、頭の中で響いてリフレイン。

 胸がドキドキして恥ずかしくて逃げだしたいのに、緊張して足が動きません。


「私は、アリシア嬢が好きです」

 セイル様は真剣な表情でそう告げると、私に歩み寄り、呆然として動けないでいる私の前に跪きました。

「私の気持ちに、応えていただけませんか?」

 私の瞳を見てそう言った後、左手の甲に優しいキスを落とすセイル様。

 私も貴方が好き。

 とても、嬉しいのに…。
 
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