ある日、海辺で

松石 愛弓

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夏の小さな出会い

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 暖かい夏の風が、頬に優しく触れる。
 どこまでも続く、白い砂浜。
 小さな貝殻が混じるサラサラとした砂に付けた私の足跡を、緩やかに押し寄せる波が消してゆく。

「ルカ~~♪」
 
 青空を背に、金色の短い髪を風に靡かせながら駆けてくるカイルの笑顔が眩しい。

「これ見て? この貝、可愛いくない?」

 うきうきしながら貝を見せるカイル。
 カイルの手のひらの上には、30㎝くらいある大きな桜色の巻貝が鎮座していた。

「どっしりした丸長い形が可愛いし、ほら貝としても使えそうだよね♪」

 もし、ほら貝になりそうだったら、使うのかい? 一体、いつ? と、ふと思ったけど、突っ込まないでおくわ。

「そうね。可愛いわね」

 とりあえず話を合わせておくと、

「だよね。吹いてみよ~っと♪」

 吹くんか~~い!
 まぁ、ここは海だし。騒音で苦情が出ることもないよね。

 ♪ブォ~~~~~ン♪

 可愛い見た目のわりに、野太い音が辺りに鳴り響く。

「あ~~~、良い音♪」

 満足気にほら貝を吹き終えたカイルが至福の笑みを浮かべた時、ほら貝から白い煙が舞い上がり、

『お呼びでしょうか? ご主人様!』

 ほら貝の中から、2人の子供の小人が現れた。可愛い民族衣装のような服を着ている。

 もしかして……召喚しちゃったのかな?

「え~~~っと……。特に、呼んでないんだけど……」

 申し訳なさそうにカイルが答えると、

『えぇっ?! そのほら貝を吹いたご主人様の御用を僕たちは承ることになっているんですよ? 僕たちは永遠に子供のような姿ですが、もう百年もほら貝の中で貝が吹かれるのを待ち続けていたのです。 やっと、ついに、召喚されたと、それはそれは大喜びで僕たちは登場したんですよ? 彼など、百年ぶりに歓喜のダンスを激しく踊ってしまい、早速のギックリ腰です!』

『僕は大丈夫です! これくらいの腰痛など大したことではありません! やっと、ほら貝の外へ出られたのです! やる気満々ですぞ~!』

 と言って屈伸運動を始める小人Aさん。

『さぁ、ご主人様! 私たちになんなりと御用を申し付けください!』

 やる気に満ちたキラキラと輝く瞳でひざまずく2人の小人さんに、

 いや、特に御用って無いんだけど~、とは、もう言えない雰囲気だった。

 でも、身長7㎝ほどの小人さんに、用事を頼むというのも気が引ける。

 何を頼んでも重労働になるのではと思うと、何も頼めないというのに、小人さんたちはやる気を漲らせてギラギラしている。

 ヨガや太極拳をしながらカイルの言葉を待っている。 おぉっ、ブレイクダンスにムーンウォークまで! このまま小人さんのダンスを鑑賞していたい気もするが。

 どうしたものか。 カイルが悩んでいると、暖かい風に飛ばされ、ヒラヒラと白い紙きれがカイルの足元に舞い降りてきた。

「何だろう?」

 カイルが紙切れを拾い、見てみると、何かイラストのようなものが描いてある。

 赤い丸の横には、数字の10。雲のような絵の横には、1。角がついた動物の顔?

『ご主人様! 私たちがこの謎を解明いたしましょう!』
『任せてくだされ!』

 小人たちは、自分たちで強引に「ご主人様からの御用」を作り出し、ひゃっほう♪と楽し気に砂浜を駆け出して行った。

「ほら貝の中から出れて、本当に嬉しいのね」
 私とカイルは浮かれた小人さんたちの背中を温かく見守っていた。

「ご主人様からの御用が済んだら、また貝の中に戻らないといけないのかな? もしそうなら、紙切れの謎が解決しなければ、ずっと小人さんたちは貝の外にいられるのかな?」

 思案顔のカイル。

「私、なんとなく紙切れの内容は分かったんだけど、言わないほうがいいのかな?」

 カイルと顔を見合わせる。

「じゃあ、小人さんたちが貝の中に戻りたいって言ったら、答えを言って解決ってことにしよう」

「そうね」

 綺麗な夕焼けが海に沈むまで、小人さんを待っていたけど戻ってこなかったので、カイルと私は帰宅することにした。


 その頃。

『こんなに美味しいものを食べたのは初めてです~!』
『やっぱり、貝の外に出てきてよかったでござる~♪』

 小人さんたちは、紙切れを落とした8歳くらいの女の子を見つけ出し、人懐っこさ全開で仲良くなると、お買い物に付き合った後、女の子の家でイチゴケーキをご馳走になっていました。

 紙切れの、赤い丸10は、イチゴ10個。雲みたいな絵は、生クリーム。角のついた動物は、乳牛。牛乳。という、お買い物メモなのでした。 お使いの途中でメモを落としたようです。

 そして、小人さんたちは、〈ご主人様の御用〉をすっかり都合よく忘れてしまい、女の子の家に居候を決め込み、日々なんやかやと家のお手伝いをして家族の一員となり、幸せに暮らしたのでした。
 
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