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10 アーサー視点

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 エレンが居なくなって、1週間が過ぎた。

 ふたりで暮らした屋敷の中で、僕は毎日、たくさんのエレンの幻影に出会う。

『アーサー様! 庭に小鳥が遊びに来ていますわ♪』
『アーサー様! お菓子を作りましたの。お口に合えばいいのですが』
『アーサー様! 私、アーサー様と一緒に居られて、とっても幸せです♪』

 屋敷の中のどこを歩いても、エレンの可愛い声が聞こえてくる。
 エレンの笑顔が、僕の心を包む。

 いつの間に、君はこんなに僕の心を占領してしまっていたんだ。

 涙が頬を伝う。

『アーサー様、私に夢中なのでしょう? なんちゃって』
 悪戯っぽく呟いていたエレン。

 困った子豚ちゃんだな、と呆れていたのに、君の言っていた通りになってしまったね。


 エレン。君は今、幸せかい?

 素敵なお城に、優しい両親、皆が君にかしずいてくれる。

 君が幸せなら、僕も幸せだ。

 どんなに寂しくても…。



『アーサー様! 大好き!』
 
 ああ。また、幻影が。



 エレンの幸せをずっと願っていた。

 願いが叶ったんだ。

 もう会うこともない、手の届かないエレンの事は忘れよう。

 僕は自分に言いきかせる。



 でも、やっぱり。

「エレン…」

 君が好きだ。 



 その時、玄関の呼び鈴が鳴った。

 僕が扉を開けると、

「アーサー様!!」
 エレンが僕の胸に飛び込んできた!

 また、幻影か?

 いや、この感触は、僕がずっと求めていた──

「アーサー様! 会いたかった! アーサー様!」
 ぎゅうっと僕を抱きしめて離さないエレン。

「エレン!」
 寂しかった心が一瞬で満たされてゆく。
 エレンを離したくない!
 僕は包み込むようにエレンを抱きしめた。

 僕たちが感動の再会に盛り上がっていると、
 後ろに控えていた騎士団長から、冷静な言葉が降ってきた。

「エレン姫は、アーサー様でないと結婚しないと、婚約者候補を全てお断りになりました。
 というわけで、アーサー様には、エレン姫と婚姻していただき、いづれは我が国の王配となっていただきたく存じます。
 アーサー様のご両親には、すでに許可を得て、結納金も収め、婚約式の日取りも決めて参りました。
 相思相愛とお見受けしますし、本日より、アーサー様にはエレン姫と王城で生活していただく所存でございます」

 冷静な口調で言ってるけど、かなり強引な内容だ。

 あまりの話の進みように、僕があっけにとられていると、
 騎士団長は、さっと振り向き、屋敷の前にずらりと並んだ美形騎士たちに告げた。

「エレン姫とアーサー様を馬車で王城へお送りする! アーサー様のお荷物を今すぐ荷造りするのだ!」

 エレンは幸せそうに僕の腕にしがみついたままだ。

 僕たちは、あれよあれよという間に空飛ぶ馬車に乗せられ、王城へと飛んだ。
 
 空から、僕たちの暮らした屋敷を眺める。

 短い間だったけど、楽しい思い出がいっぱいの屋敷が小さくなってゆく。


 
「アーサー様♪」
 僕を見つめる瞳が、嬉しそうに輝いている。

 もう、離さないよ。


 どこまでも続く青空は、まるで僕たちを祝福してくれているように、美しかった。
 

 

 





 end




最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
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