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9 アーサー視点
しおりを挟む列の先頭に立つ、騎士団長のような貫禄のある男性が告げた。
「貴殿には、エレン姫が大変お世話になり感謝申し上げます。
王家に伝わる青いペンダントから、姫の魔力を感知することができ、お迎えに上がりました。
これは国王陛下からの御礼の品に御座います。後日、改めてお伺い致します」
騎士は、僕にずしりと重い宝箱を強引に持たせた。
一体、何㎏あるんだ。重くて動けない。
「失礼いたします!」
騎士たちが強引にテントに入ってきて、エレンを抱きかかえ連れてゆく。
「エレン!」
「アーサー様! 私、アーサー様のお傍にいたい! アーサー様!」
僕に手を伸ばすエレンを見て、連れ戻さなければと思った。
騎士を捕まえ、宝箱を押し返すと、僕はエレンの後を追った。
しかし、
「エレン!」
「やっと見つけたわ! 私の可愛いエレン!」
豪奢な馬車から大急ぎで降り、エレンに駆け寄るふたりの姿を見て、僕の足は止まった。
エレンにそっくりな顔をした国王陛下らしき華麗な衣装を纏った恰幅のよい男性と、美しいドレスに身を包んだエレンの母らしき女性。
エレンとの再会を心から喜び、涙を流している。
エレンには、こんなに立派な両親がいた。
国に帰れば、豪華なお城で何不自由なく暮らせるんだ。
今まで、身寄りのない使用人として蔑まれてきたエレンが、人々の頂点に立つことができる。
エレンを連れ戻そうなんて、僕は何を考えているんだ。
僕の傍にいるより、王女として暮らしたほうが幸せに決まっているのに。
エレンの幸せの邪魔をしてはいけない…。
僕はエレンを幸せにしたくて、夜逃げ同然に隣国まで来たんだ。
このまま、見送ってあげなければ…。
呆然と佇む僕に、騎士団長らしき男が近づいてきた。
「実は、エレン様は王家の双子の妹としてお生まれになりました。王家に双子は不吉という古い言い伝えがあり、それを重んじた数人の重臣が、エレン様の命を狙うようになりました。
どこか安全な所へ預けようと赤ん坊のエレン様を抱いて逃げ回っていた者が、追手に見つかりそうになり、一時的に、どこかの屋敷の馬車に乗せて隠したのです。
なんとか追手を撒いて、エレン様を乗せた馬車を探しましたが、その馬車は走り出した後で見つけることができませんでした。
エレン様に持たせた王家のペンダントは、魔力を使えるようになれば居場所を感知できるとされていたのですが、エレン様はなかなか魔力を使うようになられない。
もう、絶命されているかもしれないと心配していたのですが、ここ数日、何度もエレン様の魔力を感知することができるようになり、ついに居場所をつきとめることができました。
双子の姉の姫様は、現在、病に臥せっておられ、いづれはエレン様に王家を継いでいただく予定でございます。
もう、エレン様の命を狙う重臣も捕え裁かれ、今は何の問題もございません」
「そうですか…。エレンを…いや、エレン姫をこれからも大切に守ってくださいね」
「もちろんです」
彼は僕の足元に宝箱を置くと、深いお辞儀をして、エレンが両親と乗った空飛ぶ馬車を守るように、騎士たちと空へ飛び立っていった。
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