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6  アーサー視点

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 内緒でエレンを屋敷から連れ出すため、侍女も連れずに隣国に来たが、エレンは侍女の代わりをしようと一生懸命努力してくれていた。

 掃除や洗濯の他に、料理も厨房でシェフの腕前をこっそり見て勉強していたらしく、美味しい食事を作ってくれた。

 でも、天才肌というわけではなくて、努力してある程度のレベルまでもっていくタイプで、苦手なことは何度でも練習していた。

 僕の希望通り、日に日にぷくぷくと太ってゆくエレン。
 赤ちゃんのような弾力のあるふわふわの腕、小さくてふっくらとした手、ふくらはぎも太めで、でも手足は小さくて、理想的な子豚ちゃんだ。

 エレンはよく気が付き、僕が紅茶が欲しいなと思っただけで、絶妙なタイミングで美味しい紅茶を淹れてくれる。

 僕が帰宅した時など、まるで可愛い子豚ちゃんが喜んで突進してきたみたいで、そんなに僕を待ってくれていたのかと思うと愛しくなった。

 小さくてコロコロ太った、可愛い僕の子豚ちゃん。
 可愛くて、つい、頭を撫でたり、抱きしめたりしてしまう。

 この間は、ヌイグルミを抱いてるような安らかな気持ちになって、そのまま眠ってしまった。

 いつも、僕はとても健全な気持ちだったけど、エレンがその一連の行為を誤解しているとは思っていなかった。


 今までどこにも遊びに行けなかったエレンを僕の背中に乗せて空を飛び、いろいろな所へ出かけた。
 
 静かな湖畔の美しい森を散策、川遊び、街の甘味処でお茶したり、エレンに似合う可愛い服や靴をふたりで選んだり。

 まるで、仲の良い兄妹みたいに、僕たちはじゃれあって楽しく過ごした。



 両親に何も言わずに、突然、遊学してしまったので、先日、話をするため実家に戻ると、僕はエレンと駆け落ちしたと思われていた。
 それは違うと、侍女長から守るためだと説明すると、もう侍女長はこの屋敷に居ないということだった。

 侍女長の弟はギャンブル好きで、大きな借金を作り、侍女長に借金を押し付けて逃げたらしい。
 侍女長は、働いても働いても弟の借金の支払いに追われて、そのくやしさを、エレンや弱い立場の使用人に八つ当たりして鬱憤晴らししていたようだ。

 しかし、弟の作った借金は金利でどんどん膨れて、借金取りに脅され、どうにもできなくなった侍女長はついに屋敷の金庫を盗もうとした。

 金庫から金を出そうとしているところを、侍女長が虐めていた使用人が見つけ、泥棒を捕まえるという大義名分を得た使用人は、このチャンスを逃してたまるかとばかりにタコ殴りにして捕まえ、騎士団の詰め所に通報した。

 エレンみたいに黙って我慢する人ばかりじゃない。
 侍女長に残ったのは、莫大な借金だけだ。
 
 エレンは侍女長の事をもう思い出したくないだろうから、この話はしないでおこう。

 エレンには、過去を振り返らず、闇から光のあたる所へ歩いていってほしいから。
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