上 下
9 / 25

9

しおりを挟む
 朝食後。ミーナに土が付いていたので風呂場で綺麗に洗ってあげて、ついでに自分の体も洗うと、お仕着せに着替え、サリーはいつものように中庭のベンチで猫と日向ぼっこしていました。

「サリー」
 爽やかなキラキラ笑顔のローナンドが現れました。
「ローナンド様、昨日はありがとうございました」
 サリーが立ち上がり、丁寧なお辞儀でお礼を言うと、
「昨日は楽しかったね」
 と、微笑みながらサリーの隣に座るローナンド。

(楽しかったね、なんて。
 ローナンド様は私の買い物ばかりして大量の荷物を持ってくださって大変だったはずなのに)
 ローナンドの優しさに、今日も胸がときめいてしまうサリーでした。

「ローナンド様が畑の許可をくださった土地の草むしりを朝からしていたのですが、猫ちゃんが見事な畑を作ってくれたんです」
「え?」
 得意げに尻尾を振るミーナを思わず2度見してしまうローナンド。
「見ていただけます?」
 サリーは猫を抱いて、ローナンドを畑へと案内しました。
 
 完璧な出来栄えの畑に、ローナンドも目を瞬きました。
「ミーナが魔法を使える猫だったとは」
 ローナンドが感心していると、今朝、畑の畝に飛び込んだ野菜の種たちが、一斉に芽を出し、茎を伸ばし、葉をいくつもつけて、にょきにょきと大きく育ってゆきました。
 あっという間に成長した野菜たちは、たわわに実っています。

「…もう収穫できそうですね?」
「…そうだな」
 ふたりは驚きの光景にしばし呆然としていましたが、はっとローナンドは我に返りました。

「ミーナが魔法を使えることは僕たちだけの秘密にしよう。ミーナが珍しい猫だと誰かに知られて攫われたらかわいそうだ」
「そうですね。ミーナはローナンド様と私を会わせてくれた大切な猫ちゃんですもの」
「サリー…」
「ローナンド様…」
「にゃ~♪」
 ふたりの世界に入ろうとしたら、ちゃっかり『まぜろ!』とばかりにミーナが鳴きました。

「わかったよ、ミーナ」
 ローナンドは笑うと、ミーナを胸に抱いたサリーをそっと抱きしめました。
 ふたりの間でミーナが幸せそうな表情をしています。
「こんなふうに、ずっと僕たちは一緒に居よう」
 ローナンドの優しい声が耳元で響き、
「はい」
 幸せで胸がいっぱいになってゆくサリー。
 しばしローナンドの腕の中で幸せな雰囲気に浸ったあと、ゆっくり名残惜しく身を離したのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

寡黙な貴方は今も彼女を想う

MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。 ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。 シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。 言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。 ※設定はゆるいです。 ※溺愛タグ追加しました。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

処理中です...