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 嵐の吹き荒れる森の中。
 私とシャルロットは対峙していた。

「本当に思い出せないの。私が何をしたのか言ってよ」
 バリアの中から、強風で折れた木の枝や風に飛ばされた石が飛んでくるのが見えて、不安な気持ちになってくる。
 私、前世で何しでかしたんだろう?

「だって…あなたのせいで私はいつも2番だったのよ! 私の家は医者の家系で兄弟はみんな優秀だし、私は成績が1番になれないことで、いつも教育ママから嫌味を言われて辛かったわ! それなのに、いつもあなたは私と同じクラスで。あなたが他のクラスだったら、私が1番だったかもしれないのに!」
 シャルロットはハンカチを噛みながら怒った。

「そんなこと言われても…。蟹埼さんの家庭の事情まで分からないし…」
 ただただボーゼンとしてしまう私。

「それに! 私に初めてできた彼氏が、あなたと同じ図書委員になってしばらくしたら、あなたを好きになったから別れてくれって言われて…。あなたは結局、彼氏とは付き合わなかったけど、私たちは復縁することもなかったわ!」
 さんざん噛んだハンカチで涙を拭うシャルロット。

「私、ちゃんと断ったし…。思わせぶりなこともしてないよ?」
 なんだか私の知らないところで、いつの間にか蟹埼さんを苦しめていたらしい。

「何、余裕ぶっこいてんの!? 馬鹿にしてんの?私のこと!」
 泣きながら睨みつけられる。
 蟹埼さんの怒りは収まらない。
 しばらくここで絡まれるんだろうか。
 不本意だけど、私が謝ったら少しは気が済むのかな。
 そう思っていると、

「いい加減にしろっ!」
 木の陰からひとりの美しい青年が現れた。

「ジャック様! どうしてここへ?」
 まずいところを見られたような表情でシャルロットがたじろぐ。

 青年はシャルロットの前に立つと、言い放った。
「君の様子がおかしかったから、そっと後をつけたんだ。君は、こんな人気の無い森に伯爵令嬢を連れ出して脅すような女性だったのか! 俺は陰湿な女性は嫌いなんだ。君との婚約は破棄させてもらう!」

「そ…そんな…」
 がっくりと項垂れるシャルロット。

 そして青年は振り向くと、私の瞳を見つめた。
「君は藤峰麻理さんなんだね。学年が違うから君と会う機会も無く、こんな事でもなければ、君が藤峰さんだと知らずに、親の勧めるままにシャルロットと結婚するところだった。俺、天羽葎(あもう りつ)だよ。君の幼馴染の」

 優しい眼差しで私を見る金髪碧眼の美少年。
 このはにかむ笑い方は懐かしさを覚えるわ。

「りっちゃん?」
「そうだよ。麻理」

 りっちゃんが私に近づいてくる。
 そんな彼を、蟹埼さんは後ろから羽交い絞めにした。

「嫌よ~! 別れないわ! ジャック様は家柄も容姿も財産も、そこそこ私の理想なのよ~! 婚約破棄なんてされたら格好悪くて学園に通えないわ~! お願い、婚約破棄するなんて言わないで~~っ!!」
 絶対、離すもんかとしがみつく蟹埼さん(シャルロット)

「そこそこって、何だよ! そこそこって!」
 そこそこと言われたのが、とても気に入らない様子のりっちゃん(ジャック)

「ああん、私ったら口が滑って! だいたい、藤峰さんが怒らせるから嵐を巻き起こしちゃったんだし、あなたに会わなければ婚約破棄されないで済んだのに! 前世だけでなく今世まで私の人生を踏みにじるつもり? なんて酷い人なの! 私が一体、何をしたっていうのよ~っ!!」

 それなら、私を森に呼び出さなかったらよかったのに。
 と思ったけど、言ったらまた逆切れされそうだったから言わなかった。

「もう許さないわ! 私の前から消えて!」
 シャルロットが魔法で大きな竜巻を起こし、私は遥か彼方へ飛ばされた!

「麻理~~~っ!!」
 麻理を追いかけようとするジャックにシャルロットが卍固めを決める。

「何するんだっ、離せっ!!」
「嫌~っ! 婚約破棄を撤回してくれるまで離さない~~っ!!」
「卍固めする伯爵令嬢なんていないぞ! ドン引きだ!」
「結婚して~~っ!」

 そんなに俺と結婚したかったのか?
 少しかわいそうに思えてきたジャックは、シャルロットの気持ちを測ることにした。

「それなら、俺よりもっと家柄も容姿も良くて財産のある友人を紹介しようか?」

 しばらくの沈黙の後、
「本当?」
 シャルロットの嬉しそうな声が、静かな森に響いた。

 やっぱり俺は、そこそこの結婚相手だったのか…。それなら、もっと良い理想の相手を探してくれ!

 それまで手加減していたジャックは、あっさり卍固めを解くと麻理が飛ばされた方向へと向かった。

「麻理。君に逢えたら言いたかったことがあるんだ…!」
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