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まさかの裏切り

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「あの方が、白竜ですよ」

 隣国スティファニー王国の使者が言った。

 やはりそうだったか…!
 
 彼には、この世のものとは思えない美貌とオーラと迫力を感じていた。
 穏やかそうに見えても、ただ者ではないと畏れていた。

「彼は時々、気分転換に本来の竜の姿で空を飛ぶこともありますが、ほとんどの時間は人の姿に変身して宮殿での生活を楽しんでいるようです」
 
 だから、誰も白竜の住処を知らなかったのか…。

「白竜の宮殿へ、よく辿りつけましたね。私の国など、白竜に会ってもらえるようになるまで相当の努力をしたのですよ? あの宮殿は、人が侵入できないようにいろんな仕掛けが施されているはずなのですが」

「サーシャちゃんが一緒だったので…」

「それは幸運でしたね。宝玉まで貸していただけるなんて、余程、白竜に気に入られているんですね」
 スティファニー王国の使者は、しきりに感心していた。

「私のことは、マルクとお呼びください。早速、宝玉のある部屋へご案内します」
 マルクさんはにっこり笑うと、僕たちを先導して宮殿に招いてくれた。

 広すぎて迷子になりそうだと思いながら、僕たちは長い廊下を奥へと進んでいく。

「赤の宝玉は王様が使っておられます。病に臥せっておられるので、なるべく静かになさってください」
 マルクさんが緊張の面持ちでつぶやいた。
 
 王様が使っている宝玉を貸してもらう?
 
 それって、めちゃくちゃ失礼なんじゃないか? いいのだろうか…。

 …よし、最短期間で返却しよう。それしかない。

 王様は寝室で休まれていて、医師に診てもらっているところだった。
 
 顔色、悪いな…。白竜の宝玉も効かなかったのだろうか…。

 …ん?

「あなた、何してるんですか」
 僕は冷たい眼差しで、医師を見た。

 この臭いは…。

 指先から、自白したくなる魔法の電流を医師に飛ばす。

 ビリビリッ!!
 一瞬、医師の頭が痺れたように震えた。

「その毒薬は、誰に頼まれたのです? 自分の意志で盛ったのですか?」
 低い声で訊くと、

「…エリック公爵に盛るように言われて…私はしたくなかったが、家族がどうなってもいいのかと脅されて仕方なく…」

「いつから盛っていたのです?」

「1か月前から、毎日少しずつ…毒を盛り弱らせて…病死したかのように、じわじわと殺すつもりでした…」

 その時、医師の眼光が狂気に変わった!

「もはや、これまで!」
 医師は懐から出した短剣で、王を刺そうとしている!

「やめろ!」
 僕が放った電撃破で、医師は壁へと吹っ飛んだ。モーリスが素早く縛りあげる。

 王を守ろうとしなかった執事の態度が不審に思えて、執事にも自白魔法をかけた。

「…王様の殺害計画に協力していました…」
 執事は逃げようとしたが、モーリスが捕まえて縛った。

「…そ…そんな…エリック公爵がそんなことを…。王座を狙っていたのか…?」
 マルクさんはショックで動けないようだ。

「マルクさん、宮殿内にいる人を全て大広間へ集めてください。王様の殺害計画に関わっている人はもっといるはずです!」

「…は…はい!」
 マルクさんは慌てて廊下へと飛び出していった。

「そなた…わしを守ってくれるのか?」
 恐怖に震える王様は、痩せ細った腕を僕に向かって伸ばしている。
 病気ではなく毒に侵されていたから、病気治療に使う白竜の赤の宝玉が効かなかったのか。

「はい。僕が出来ることは全力でさせていただきます。王様、解毒魔法をかけてもいいでしょうか?」

「ああ、頼む!」

 僕は王様に解毒魔法をかけた。

 王様の顔色はみるみるよくなり、眼光も力強くなった。

「体が…軽い!楽だ! あんなに重苦しかったのに、久し振りに晴れ晴れとした気分じゃ!」
 王様はベッドから起き上がり、僕の手を握った。

「…ありがとう! そなたは命の恩人だ! 誰も気付かなかったのに、一目で医師の悪事を見抜き、わしの体まで治してくれた!」
 王様の目には涙が光っていた。

「王様、安心されるのはまだ早うございます。他にも、殺害計画に加担している者が大勢いるでしょう。まずは宮殿内の加担者を捕まえ、自白させ、宮殿外の加担者たちも捕まえなければなりません」

 王様は驚愕の表情でたじろぐ。
「…そんなに、殺害計画に関わった者がいるのか…?」

「おそらく。念のために調べておいたほうがいいと思いますが」
 冷静に答える僕を、王は捕まえて離さない。

「そなた…名は何という?」

「サファーロ・フォン・ペリゴールと申します」

「サ…サファーロ、頼む。わしの傍に居て、守ってくれ! もう宮殿内の誰を信じていいのかも分からないのじゃ! 長年信頼していた執事まで、わしを裏切っていた! そなたを…そなたを信じたいのじゃ!」

「初めて会った私を信じてくださるのですか?」

「この1か月、医師の悪行を見て見ぬふりをしていた者が大勢いるのじゃ! もうわしはそなたしか信じられないのじゃ! わしの息子は事故死した。もしかしたら、暗殺されていたのかもしれぬ…」

「…そうでしたか…。分かりました。事件を解決し、王様の傍でお守りいたします。
 …シャルル、分かってくれるね?」
 僕はシャルルをそっと見た。
 こんな精神状態の王様を放ってはおけない。

「もちろんですわ」
 シャルルは微笑んで、快諾してくれた。

 マルクさんが、大広間に宮殿内の人を全て集めたと、僕を呼びに来た。
 王様の護衛を、モーリス、エミリー、シャルルに任せ、僕はマルクさんと大広間へ向かった。
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