上 下
7 / 24

もふもふの銀猫

しおりを挟む
 空が夕暮れの美しいグラデーションに染まってゆく。

 朱色の夕焼けが揺れながら名残惜しそうに沈んでゆくのを、サファーロの隣で見れて幸せだとシャルルは思った。

 ―――サファーロ様は爵位の差を気にしていつかは身を引くおつもりなのかもしれないけど、私はサファーロ様以外の人なんて考えられない。
 正式な夫婦になれなくても、事実婚という形はとれないのかしら…。
 そんなこと、きっと両家の親が許さないわね…。
 この旅が終わっても、サファーロ様は私に会ってくださるかしら…。
 もし…サファーロ様に会えなくなったら、私は修道女になろう。
 そして一生、サファーロ様を想い続けよう…。

 シャルルは、サファーロと一緒に居られる時間は限られていると悟り、この貴重な時間を一分一秒でも大切にしようと思った。

 綺麗に舗装された石畳を抜け、広場の噴水の前を歩いていると、もふもふした可愛い猫がベンチに座っているのに気付く。

 ポメラニアンを銀毛にしたような姿の猫だ。翡翠色のつぶらな瞳でシャルルをじっと見ている。
 
「ニャア」

 まるで、こっちへ来いと言っているような、ふてぶてしい鳴き方だ。

 シャルルは引き寄せられるように猫の傍へ歩いていった。

 銀色の毛、翡翠色の瞳は、まるでサファーロの化身のようだ。

 サファーロは今、シャルルのそばにいるのだから、この猫は全く別の個体なのだが、シャルルはサファーロの分身を捕まえるような気持ちで銀色の猫を抱きしめていた。

 サファーロを抱きしめたい気持ちが、銀猫に向かってしまう。

 サファーロ本人に、抱きしめたい、なんてシャルルには言えない。
 でも、猫になら大胆になれた。

 シャルルは、サファーロへの愛情を銀猫に注ぎ込むように、抱き締め、慈しむように背中を何度も撫でた。

 見知らぬ人からの過剰なスキンシップに驚いた猫は、シャルルの腕をすり抜け逃げてしまった。

「お嬢様。そんなに猫がお好きだったんですか?知らなかったです~」
 エミリーがすごく驚いている。

「私も、知らなかった…」

 きっと、あの猫が銀毛で翡翠色の目をしていなければ、こんなことはしなかった。
 サファーロへの想いがどんどん大きくなっていることを実感してしまう。

「あの猫、首輪をしてなかったですね。
 飼い主がいないのなら飼ってあげては?探してきましょうか?」
 サファーロが訊いてくれたが、シャルルは首を振った。

「あの猫ちゃんはこの街を気に入ってるのでしょう。
 また私の前に現れ近づいてきてくれることがあれば考えます。
 サファーロ様、お気遣い感謝します」

 きゅるるるるるる…るん♪

「あっ、すみません。お腹が空いちゃって…」
 モーリスが気まずそうに頬を掻く。

「なんだか面白いお腹の音でしたね♪」
「あっ、ひどいな。エミリーさん」
「ごめんなさ~い。あまりにも可愛い音だったのでびっくりして!」
「ハハ…そうですか? ^^」
 単純なモーリスだった。

「あっ! あそこに食堂があります、サファーロ様!」
 モーリスがビシィッ!と指を指した先には、「狐の和み亭」という店の看板があった。

「シャルル嬢、あの店でもいいですか?」
「はい。私、食堂なんて初めてでワクワクします」

 シャルルの返事を聞いたモーリスは、食堂へと一直線に駆け出した。
 まるで、うっかり八〇衛のようである(by 水戸〇門)

「そんなに空腹だったのか…」
 サファーロが感心していると、

 くぅぅぅぅぅぅん♪

今度はエミリーの腹が鳴ったが、サファーロとシャルルは聞こえなかったふりをしてあげた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】捨てられ正妃は思い出す。

なか
恋愛
「お前に食指が動くことはない、後はしみったれた余生でも過ごしてくれ」    そんな言葉を最後に婚約者のランドルフ・ファルムンド王子はデイジー・ルドウィンを捨ててしまう。  人生の全てをかけて愛してくれていた彼女をあっさりと。  正妃教育のため幼き頃より人生を捧げて生きていた彼女に味方はおらず、学園ではいじめられ、再び愛した男性にも「遊びだった」と同じように捨てられてしまう。  人生に楽しみも、生きる気力も失った彼女は自分の意志で…自死を選んだ。  再び意識を取り戻すと見知った光景と聞き覚えのある言葉の数々。  デイジーは確信をした、これは二度目の人生なのだと。  確信したと同時に再びあの酷い日々を過ごす事になる事に絶望した、そんなデイジーを変えたのは他でもなく、前世での彼女自身の願いであった。 ––次の人生は後悔もない、幸福な日々を––  他でもない、自分自身の願いを叶えるために彼女は二度目の人生を立ち上がる。  前のような弱気な生き方を捨てて、怒りに滾って奮い立つ彼女はこのくそったれな人生を生きていく事を決めた。  彼女に起きた心境の変化、それによって起こる小さな波紋はやがて波となり…この王国でさえ変える大きな波となる。  

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。

つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。 彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。 なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか? それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。 恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。 その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。 更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。 婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。 生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。 婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。 後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。 「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

処理中です...