魔物の森に捨てられた侯爵令嬢の、その後。

松石 愛弓

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「母上。どうされたのです? 人払いまでして」

 王妃の部屋に呼び出されたネイル王子は、爽やかに微笑んだ。

 罪悪感の欠片も感じられないふてぶてしいその姿を見て、王妃はそっと溜息をついた。


 ネイル王子は悪びれもせず、悲しげな表情を作り演技し始める。

「母上……。実は今日、ルナリスに会いに侯爵邸を訪ねたのですが、邸の者が言うには、ルナリスは突然、家出したそうなのです。婚約者の私に何も告げず、居なくなるなんて……。ルナリスに裏切られた気分です。彼女は私を捨てたのです!」

 不安と苛立ちと悲しみを身振り手振りで表現し、迫真の演技に酔いしれるネイル王子。

 無表情だった王妃の顔が、徐々に冷たさを帯びてゆく。


「母上。私はルナリスを許せません。婚約破棄を申し出ます!」

 苦悩の表情を浮かべながらも、心の底から湧き出る笑いを我慢しているような、残酷な息子の一面を見てしまった王妃は、能面のような冷たい顔で言葉を落とした。

「捨てたのは、あなたでしょう? ネイル」

 王妃は、大きな白い壁をスクリーン代わりにし、手のひらに持っていたルナリスのペンダントに収録されていた映像を映し出す。

 男爵令嬢とふたりでルナリスを貶し、魔法で魔物の森へ送り、恐ろしい魔物たちに取り囲まれた様子の一部始終が鮮明に映されていた。


「……違う! これは違うのです、何かの間違いだ! 私がこんな事をするはずが……! これは私を陥れようと誰かが作った物です!」

 なんとか自分を正当化しようと焦るネイル王子。

「母上! こんなものを信じてはなりません! これを作った犯人をすぐに見つけて捕らえますゆえ!」

 慌てて部屋から逃げ出そうとするネイル王子を、王妃が呼び止めた。

「いいかげんにしなさい! 往生際の悪い!」

 王妃の氷魔法で、ネイル王子の足裏は凍りついた。

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