魔物の森に捨てられた侯爵令嬢の、その後。

松石 愛弓

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「……なんて酷い事を……。ルナリス、本当に申し訳なかったわ……」

 王妃様は俯き、悲しげに目を伏せた。

「……ネイルと婚約したのは、まだあなたが8歳の頃。幼いあなたが一生懸命王妃教育に励む姿が可愛らしく、本当の娘のように愛しく思っていたのに……」

 王妃様のまなじりに涙が浮かび、王妃様の期待に応えられなかったことが申し訳なく思えた。

「王妃様……。私も、いつも優しく微笑んでくださる王妃様をお慕いしておりました……」

 私の頬にも、一筋の涙が光る。


「王妃様……。私、しばらく王都を離れようと思っております。きっと、婚約破棄された私を、両親は許してはくれないでしょう」

「そんな……。あなたは何も悪くないのに……」

「いえ……。元々、家に居るのがつらくて、一度、出てみたかったのです」

「ルナリス……」

 王妃様はスッと立ち上がると、飾り棚から綺麗な宝石箱を取ってこられた。

 私の手にそれを持たせると、

「この宝石を売って旅費に使いなさい。旅を楽しんで、またいつか私に会いに来て」

 ずっしりと重い宝石箱に躊躇する。

「王妃様、こんな高価な品をいただけません。私は、王都から去ることをお伝えしたかっただけですのに……」

 宝石箱を返そうとする私の手を、王妃様の艶やかな手が押しとどめる。

「これは私の気持ちです。受け取ってちょうだい」

 慈愛のこもった眼差しに、威圧される。

「王妃様……」

「また、いつか必ず、私に会いに来て」

 王妃様は私の手を握って、寂しそうに呟いた。

「10年も、あなたを娘のように思っていたのよ。ルナリス……」


 あぁ。この方が本当の母だったら、よかったのに……。

 このしなやかな温かい手を、きっと忘れることはできない。

 いつも私の心を照らしてくれた、暖かな陽だまりのような方……。


 私は名残惜しい気持ちを抱えながら、王宮を去った。

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