魔物の森に捨てられた侯爵令嬢の、その後。

松石 愛弓

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 穏やかな風に身を任せながら午後の晴れた空を飛んでいると、ふと家族の顔が脳裏に浮かんでくる。

 厳しい父母は、ネイル王子に捨てられた私を許しはしないだろう。

 おそらく、王子の心を繋ぎとめておけなかった私の魅力の無さを責め、邪魔者扱いにされる。

 長女だからと私にばかり厳しく当たり、弟妹ばかり可愛がる両親。

 魔物の森から生還しても、私には帰る家など、居場所など無いのだ。

「旅に出たいなぁ……」

 もう王妃教育を受けなくてもいいし、王子と破談になった私に縁談の話も来ないだろうし、そんな気持ちにもなれない。

 自分の部屋にある物を売って、お金に換えて、少しの間だけでも傷心旅行がしたい。

 誰にも何も言われず、心を癒したい。

 愛していない婚約者だったとはいえ、結婚する相手だと信じて王妃教育を頑張ってきたのに、浮気され、魔物の森に捨てられた事はショックだった。

 旅をしながら今後どうしていくか、ゆっくり考えてみたい。



 そんなことをぼんやり考えながら飛んでいると、宮殿の廊下を歩く王妃様の姿が目に映った。

 先触れも無しに訪れるなど失礼だと思いながらも、私は宮殿内に着地し、廊下で深くお辞儀しながら王妃様が通られるのを待った。

「あら、ルナリス。私に会いに来てくれたのですか?」

 王妃様は私を見つけると、すぐに優しく声を掛けてくださった。春の陽だまりのような暖かな微笑と美貌は、まるで聖母のようだ。

「はい……王妃様。突然、お訪ねした無礼をお許しください。実は……」

 真っ青な顔をした私を心配し、王妃様は人払いをして応接室で話を聞いてくださった。証拠映像も見ていただいた。

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