異世界でのんびり暮らしてみることにしました

完熟リンゴジャム その２

　籐の籠に山のように盛られたリンゴを抱える私とカイルに、森の動物たちや妖怪たちが注目してる。

　完熟リンゴの甘酸っぱい匂いがたまりまへんがな～！という、心の叫びが聞こえてきそう。

　ところどころに、輝くヨダレが見える。


「なんだい、大勢来たんだね～」
　魔女のおばあさんも家から出てきました。

「このリンゴ、ひとつあげてもいいですか？」
　私が聞くと、

「ひとつでは足りないだろう？」
　不思議そうな魔女のおばあさん。

「大丈夫です！」
　私はリンゴを空高く浮かせると、

「大きくな～れ～！」
　ボムッ！
　魔法で20mのリンゴに巨大化した。

　巨大リンゴはふわふわと空中を漂いながら、動物や妖怪たちのところへ降りていく。

「どうぞ、召し上がれ♪」

　どど～～ん！と、目の前に聳え立つ巨大リンゴを呆然と見上げる動物や妖怪たち。

「これ、どうやって食べるんだ？　食べ応えはありそうだが」
「さすが、ルカちゃん。大胆なおもてなしだ！」
「よしっ！　全身洗浄して、巨大リンゴに挑むぞ！」
「お～！」
　動物や妖怪たちは、魔法で全身洗浄すると、次々と巨大リンゴに飛び移り、よじ登り、モグモグとリンゴを食べながらリンゴの奥へと進んでゆきました。

　1番にリンゴの頂上を制覇した妖怪が「ヤッホ～！」と叫んでる。
　山登りのような、ロッククライミングのような、巨大リンゴ試食会？

　リンゴの外側からリンゴの中央に向かって掘りながら食べ進んでいると、向こう側から食べ進んできた白ねずみさんと、リンゴのトンネルがつながってしまい、顔を見合わせて笑いあう白ねずみさんたち。
「こんなところで会えるなんて、運命を感じるね」
「ねずおさん」
「ずっと、君が好きだった～！」
「わたしも～！」
　リンゴの真ん中で愛を叫ぶ者がいたり。

　全身リンゴ果汁にまみれ、べたべたになりつつ、リンゴの甘酸っぱい爽やかな香りを堪能しながら、お腹一杯になるまで甘いリンゴの果肉を味わい尽くす動物や妖怪たち。

「中央の蜜のところ、すごく甘～い！」
　皆でちゅうちゅうと蜜に吸い付き、

「こんな食べ方も楽しいね♪」
　動物や妖怪たちはとてもごきげんです。

　さて、私はリンゴを洗って皮むきをしよう♪

　魔法で水洗いしたリンゴを、小さな風の刀で向いてゆく。

　赤い皮をしゅるしゅると薄く細長く剥いて、芯を取った果肉だけを大皿に盛ってゆく。

　しゅるしゅるしゅる…

　空中でくるくると回り赤い皮を剥かれてゆくリンゴたちは、まるでダンスを踊っているみたい。

　無数に浮かぶ真っ赤なリンゴたち。
　新体操のリボンみたいに、赤い皮が優雅に舞っている。

「綺麗だね」
　魔女のおばあさんと、私とカイルは、リンゴたちの舞を微笑ましく見ていた。
　動物たちや妖怪たちも、満幅のお腹をさすりながら歓声をあげている。

「ルカちゃん、カイルくん、お手伝いしてくれてありがとう。今日は賑やかで楽しかったよ。また来てね」
　魔女のおばあさんは、手作りリンゴジャムを大きなガラス瓶に入れてくれました。

　パンに塗って食べたら、美味しいだろうなぁ～。
　レオンさんやアーシャさん双子の弟たちも、きっと喜んでくれるわ。

「ありがとうございました」
　まだ温かいジャムの瓶を抱えて、幸せな気持ちで私とカイルは空を飛んだ。

　このジャムの瓶が空になったら、私が作ったジャムを入れて、魔女のおばあさんに会いに来よう。喜んでくれるといいな♪

　美味しい完熟リンゴジャムはあっという間に空になりそう。

　近日中の再会を心の中で約束して、夕日に染まる茜色の空を飛んでゆきました。