異世界でのんびり暮らしてみることにしました

筋肉豚さんのトレーニング

　青く澄んだ空を、ルカとカイルは楽し気に飛んでいました。
　眼下には美しい花畑が広がり、花の甘い香りを風が運んできます。

「気持ちいいね、ルカ！」
「うんっ！　あっ、たくさんの花びらが風に舞ってる！」
「よし、花びらを浴びに行こう！」

　カイルはルカの手を引き、桃色の花びらが舞うただ中に突っ込んでゆきました。
　やわらかい2㎝ほどの花びらをたくさん浴びた先には、大勢の豚さんたちが走っていました。

「豚さん！　皆でどこへ行くの？」
　カイルが声をかけると、

「あら～！　カイルくんとルカちゃんじゃない！　
　私たち、泉の森の運動会に備えて練習してたの。
　ほら見て！　腹筋と背筋と腕立て伏せとスクワットで鍛え上げたこのボディを！」
　小さな赤いビキニでシックスパックの腹筋と二の腕の力こぶとムキムキの太腿の引き締まった筋肉ボディを見せつける豚さん軍団。
　どう見ても、運動会の練習というよりは、ボディビルの入賞を目指してるようにしか見えないのでした。

「私たち、そんなに綺麗になった？　カイルくんに見つめられると照れちゃう♪」と、頬を染めるとてもプラス思考の豚ガールズたち。
　腹筋に驚いて目が点になってただけなんだけど、とも言えず、誤解を右から左へ受け流すことにしたカイルでした。

「カイルくんとルカちゃんも一緒にトレーニングしましょうよ♪　この川を渡る時は、石の上をジャンプするのよ♪」
　豚さん軍団は川の向こう岸まで、ポツンポツンとある岩の上をポ～ンポ～ンとジャンプしてゆきます。
　ツルッ！
「あっ！」
　岩の着地の時に、足を滑らせた豚さんAが岩に尻餅を着くと、その岩は岩のフリをしていた大きなワニさんでした！

　ワニさんの大きな口が、あ～んと開き、美味しく食べられそうな豚さんAを、後ろから来た豚さんBが飛び蹴りで川の向こう岸まで蹴り飛ばしてあげました。
　くるくるっと回転しながら上手に着地とポーズを決める豚さんAに、おぉ～！と拍手が起こります。

　森の中では、ターザンのようにア～アア～♪と木の蔓を操り、ついでに、たわわに実った果物をつまみ食いして。
　海に着くとウミガメさんたちが豚さんたちを待っていました。

「ウミガメさんに泳ぎを教えてもらってるの♪」
　そういうと、豚さんたちはウミガメさんたちの背中に乗って、海へ潜ってゆきました。
　その後ろ姿はまるで、竜宮城に行く浦島太郎さんのようでした。

「カイル…泉の森の運動会って、障害物競争とかトライアスロンなのかしら？」
「そうだね…」

　夕焼けの海はとても綺麗で、赤く燃える夕陽や寄せては返す波の音を、ロマンティックなこの瞬間を、ルカとふたりきりで過ごせることにカイルは感動していました。
「ルカ…」
　夕陽に染まったルカを見ようと隣を見ると、
　ルカはすっかりスポ根モード全開になっていました。

「カイル～！　家まで走って帰りましょう～！」
　いつの間にか、鶏助さん一家もかけつけています。
　ルカとカイルと鶏助さん一家は、夕焼けに染まる波打ち際を楽しそうに走ってゆきました。