異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓

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カイルの編み物 前編

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 森の小鳥たちがさえずりはじめた冬の早朝。
 カイルは早起きして、自分の部屋で編み物をしていました。

 コン、コン♪
 ドアをノックする音がして、

「どうぞ」
 カイルが促すと、部屋に入ってきたのはルカでした。
 カイルは編みかけの毛糸玉をさっと体の後ろに隠します。

「何してるの?」
 慌てるカイルが気になるルカ。

「ううん。たいしたことじゃないんだ。あっ、ルカのジャンボオムレツ食べたいなぁ」
「わかった。美味しいのを作るね」
 カイルは体の後ろに隠した編み物をマジックバッグに入れて、ルカとキッチンに行きました。

 朝食を終えると、カイルは森の人通りの少ない所へ行き、切り株に座って編み物の続きを始めました。
 しばらくすると、散歩中のスモウブタさんが通りかかりました。
 赤い毛糸を編んでいるカイルを見て、

「あら!私のまわしを編んでくれてるの?」
 と、嬉しそうに言いました。

 なんでそういう発想になるの?
 とカイルは思いましたが、あまりにもハッキリ拒絶するのもどうかと思い曖昧に笑いました。
 それが、よくなかったようです。

「カイルくん!スモウブタさんのまわしの次は、私にも毛糸のぱ〇つを編んで!」
「私にも、腹巻を編んで!カイルくんの手編みの温もりに包まれたいの♪」
「私は、ももひき!」
「「私も!私も!」」
 どこで聞いていたのかカイルファン女子がどこからか殺到してしまい、さらに、赤い編み物に反応した闘牛まで現れ、ドドドドッ!と、カイル目がけて突っ込んで来ました。

 赤い編み物をさっと翻し、闘牛をかわすカイル。
 しかし、闘牛はUターンしてカイルを追ってきます。

「なんでこんなことに~~っ!!」
 赤い編み物を離さないカイルを闘牛は追い続けます。

「「「カイルく~~ん!!」」」
 まわしとパ〇ツと腹巻とももひきを編んでほしい女子たちもカイルを追いかけはじめました。

「なんだなんだ?!」
「マラソン大会か?」
「突然始まるんだなぁ」
「いっちょ参加するか!」
「そうだな!」
 なぜか〈森の泉マラソン大会〉が急遽開催されたと勘違いした森の動物たちも、カイルの後を追うように走ってきます。
 いつの間にか大行列が出来てしまいました。

「ところで、ゴールはどこなんだ?」
「さぁ~? ついていけば分かるんじゃない?」
 なんともユルいマラソン大会。
 そんなことでいいのか?と思いつつ、こんなことをしている場合じゃない!編み物を完成させれないじゃないか!と、はたと気づいたカイルは姿を消し、瞬間移動しました。

「最近太り気味だったから、少しは痩せるかしら♪」
 なりゆきで始まったマラソン大会をいつの間にか楽しんでいる女子たち。
「でも走った後に甘いものを食べちゃうから意味ないのよね~♪」
「ひと汗かいた後のスイーツは最高だわ~♪やめれないわ~♪」
「消費カロリーを上回ってしまうわ~♪」
「じゃあ、走れば走るほど太ってしまうのね~♪」
「こまった人ね~♪」
「あなたもよ~♪」
「うふふふふふ~♪」
 ごつい腹肉を揺らしながら、一行はなんとなくポンポコ山の頂上を目指して走ってゆくのでした。

つづく









再連載始めました ^^; 不定期連載ですが また遊びにきてくださるとうれしいです。
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