異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓

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異世界でハロウィン

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 月が煌めく、静かな秋の夜。

 楽しそうに、コウモリが飛びました。
 まるで、それが合図のように、妖怪たちが森の中へ集まってゆきます。
 
 ドクロゾンビはお気に入りのマントをお洒落に着こなし、箒に跨った魔女たちが空を旋回しています。

 大きな黒猫たちが楽しそうに飛び跳ね、真っ赤な蜘蛛たちがぞろぞろと列を連ね、たくさんの妖怪野菜や妖怪果物の眼が黄色く光り、蠢いています。

 妖怪鳥は、ホ~~ホ~~と不気味な声音を響かせ、たくさんの妖怪たちは赤や緑や青や紫の眼を光らせ、ケケケケケ…と嬉しそうに笑うのでした。

 オレンジ色に輝くカボチャたちはフワフワと空中に浮かび、動く提灯のように妖怪たちの楽しい夜を美しく彩っています。

 ルカとカイルはコウモリの羽や悪魔の触覚でコスプレして、ちゃっかり妖怪パーティーに参加していました。

 大きなテーブルの上には、妖怪たちが持ち寄った御馳走がずらりと並んでいます。
 しかし、よく見ると、血の色をしたお酒だったり、爬虫類らしきものが丸焼きにされていたり、グロテスクだったり、生々しく不気味なものが多いようです。

 妖怪ワインの酔いがまわってきた妖怪たちは、隠し芸を始めました。
 一番乗りで舞台に上がったカボチャ仮面は、かなり酔っぱらっているようです。

「レディースアンドジェントルマン! この素敵な夜に、私からのプレゼントだ! 受け取るがいい!わはは!」
 ごきげんのカボチャ仮面がステッキを空にかざすと、雷光が瞬き、バリバリバリバリ!という雷鳴とともに大量のアメが降ってきました!

「「「痛い、痛い、痛い、痛い!!」」」
 空から大量に降ってきた可愛いキャンディーは、硬くてとても痛い!

「わはは! 吾輩から皆へのスィートハートなのだ!」
 酔っぱらいのスィートハートはとても痛かった!
 せめて、柔らかいマシュマロにしてほしかったと皆は思いました。

 ルカが魔法で、降り続けている硬い飴を柔らかい綿あめに変化させましたが、綿あめは落ちてくる前に空気で溶けて小さくなってしまいました。

 でも、空から緩やかに降ってくる綿あめは、まるで雪のようで。
 カボチャ妖怪たちが放つオレンジ色の光に照らされて、幻想的な夜の景色を楽しめたのでした。

 隠し芸大会はさらに続き、吸血鬼がコップの中の血液型を当てるクイズをしたり、悪魔たちの射的競争、妖怪狼たちの遠吠え競争、妖怪ウナギの電撃波対決などで盛り上がりました。

 妖怪オーケストラの演奏で、ドクロゾンビがノリノリでホネホネロックを踊り、さらにホネホネダンサーズが登場してホネホネサンバが始まったころ、モグラさんが不審者として捕まりました。
 どうやら、妖怪パーティーの様子を無許可で録画していたようです。

「どうして隠し撮りなんてしたんだ!」

 ドラキュラ伯爵に詰め寄られ、タジタジのモグラさん。
「すみませんっ!実は先日、変わったものを欲しがる商人にスキップシャックリ笑いタケを食べた毒草を売ったら、最新式穴掘り機を買えたので、妖怪パーティーを録画して売れば、また穴掘り機が買えるかと思って…」

「そんなに穴掘り機ばかり買って、どうするんだ!」
「1家に3台、穴掘り機!」
「そんなにいらんて。それよりも、妖怪パーティーの様子を録画したものを世の中に広められては困る」
「そうですよね…」
 反省してショボンとするモグラさん。

「眉目秀麗な私を見て夢中になった大勢の女の子たちがこの森に押し寄せてきては、のんびりと暮らせないじゃないか!」
 自信満々にのたまうドラキュラ伯爵は、ナルシストだったようです。

「…顔色も青白いですし、余計な心配かと思われますが…」
 そしてモグラさんは、言わなくてもいいことを言ってしまう性格でした。

「ぬわんだと?」
「あっ。いやいや。まぁその。トマトジュースでも飲んで落ち着いてくださいよ!」
 なぜか懐から、さっとトマトジュースを差し出すモグラさん。
「完熟濃縮トマトジュースか。無農薬じゃないか!」
 あっさり買収されるドラキュラ伯爵なのでした。

 その後、魔法使いのおばあさんが美味しいミートパイをふるまってくれて、悪魔が悪魔印のクッキーを配ってくれました。

 妖怪ジュースと妖怪ケーキをお腹いっぱい食べながら、妖怪たちの隠し芸大会を見て、ハロウィン風味の秋の夜は更けてゆくのでした。
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