異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓

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心を照らす笑顔

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 今日もカイルと森を散歩しています。
 
 少しだけ秋の気配が漂う森の奥から、楽しそうにはしゃぐ可愛い声が聞こえてきました。
 声がする方へ行ってみると、15㎝くらいに育った芋さんたちが土の中から這い出てきて、太陽の下を楽しそうに走り回って遊んでいました。
 異世界の芋さんたちは、丸や四角や三角など色んな形や色をしていて、とても可愛いです。

「土の中から外の世界に出れて嬉しいんだね」
「太陽の光を浴びたかったのね」

 微笑ましく芋さんたちを見守っていると、森の奥から体長1mほどの妖怪巨大芋さんが現れました。
 いかつい顔で不気味な笑みを浮かべながら、芋さんたちを狙っているようです。

 そして、その後ろから、2mほどある妖怪パイナップルさんが現れ、さらにその後ろから、3mほどの妖怪怪獣さんが迫っています。
 まるで食物連鎖の図のように、それぞれが目の前の妖怪を狙っているようです。

「逃げて!!」
 もはや、誰に向かって叫んだ言葉か分からないけど、それぞれが順に振り向いてゆき、自分が狙われていることを知ったのでした。

「「「うわ~~~っ!!!」」」

 小さな芋さんたちは大慌てで逃げて行ったけど、妖怪巨大芋さんと、妖怪パイナップルさんと、妖怪怪獣さんは、取っ組み合いの喧嘩を始めてしまいました!

 そのうち、妖怪巨大芋さんが、妖怪パイナップルさんに食べられ、それを妖怪怪獣さんが食べて、妖怪芋パイナップル怪獣になってしまいました。

「「「なんで合体してるんだよ~~!!」」」

 芋とパイナップルと怪獣、それぞれの特徴が表れた外見で、顔は芋、体はパイナップル、尻尾は怪獣。
 なんだか前より見た目が悪くなったような気がして、鏡を見て落ち込む芋パイナップル怪獣さん。

「が~~ん…。野菜でも果物でも怪獣でもないなんて、なんて中途半端なんだ!こんな姿ではトレンディ俳優にはなれないかもしれない!」
 芋かパイナップルか怪獣の誰かが、トレンディ俳優を目指していたことも驚きでしたが、まだ諦めていないとは前向きな方です。
 
 不思議そうに見ていた私たちを見つけると、芋パイナップル怪獣さんは八つ当たりのように手のひらから芋パイナップルの実を連射してきました!

 ドドドドドドッ!

 急いで魔法でバリアを張ると、バリアにたくさんの芋パイナップルがぶつかってきました。
 バリアの面を柔らかくしておいたので、クッションのようなバリアに当たっては、芋パイナップルは潰れずに積みあがってゆきます。熟した甘いパイナップルの匂いがして、とても美味しそう~♪

「おんや~!芋のようなパイナップルのような珍しい作物だべ~!」
 ダンジョンで出会った子だくさんの豚のお母さんが、キラキラお目めで大量の芋パイナップルを見つめています。
 どうやら山に山菜採りに来ていたらしく、買い物籠の中には、たくさんの山菜やキノコが入っています。
 笑いタケやスキップタケも入っていたような気がしたのですが、豚のお母さんは細かい事を気にしないようです?

「ケケケケケ…」
 芋パイナップルは妖怪から発射されたもののせいか、空中に浮かんだり、飛び回ったり、笑ったり、話したりして、ちょっとハロウィンお化けの雰囲気っぽいのですが、まったく怖がらない豚のお母さんでした。

「おら、こんな変わった芋は初めて見ただ~! おら芋が大好きなんだ。もっと出してくんろ?」
 無邪気に笑いかける豚のお母さん。

 芋パイナップル怪獣さんは、今まで誰かに〈好き〉だと言われたことがありませんでした。
 妖怪だと恐れられ、いつも怖がられて逃げられることばかりで。

 豚のお母さんは、妖怪の僕を少しも怖がらず笑顔で好きだと言ってくれた。
 たとえそれが、僕が発射した芋パイナップルのことだったとしても。

 芋パイナップル妖怪さんは初めての温かい感情に、胸が熱くなりました。
 
 ドドドドドドッ!!!
 芋パイナップルは、たくさんたくさん発射され、大きな芋山を作りました。

 豚のお母さんは、御礼に芋パイナップル怪獣さんを夕食に招待しました。
 なぜか、ルカとカイルも招待され、豚のお母さんの家に皆と大量の芋パイナップルが瞬間移動したのです。

 豚のお母さんの家では、たくさんの子豚ちゃんたちがお母さんを待っていました。
 豚のお母さんは手際よく次々とたくさんの料理を作って大皿に盛って並べてゆきます。

 盛るのが面倒な時は、フライパンごと、ボウルごと、食堂の中をおかずたちがふよふよと浮かんでは流れてゆき、誰かが捕まえています。

 肉料理にサラダにスープに煮物に揚げ物に麺料理に果物にケーキにジュース…etc
 次々と空中を漂ってくる料理に、どの皿を捕まえようか迷っていると、

「バイキングだべ~!好きなだけどんどん食べるだよ~!」と、とても太っ腹な豚のお母さんの声が飛んできます。
 子豚たちは食欲旺盛で、まるで大食い大会のように平らげてゆきます。

「ぐずぐずしてたら無くなっちゃうよ~?」
 あはは!と笑いながら料理を作り続ける豚のお母さん。
 皆、好きな料理の皿を追いかけて捕まえては食べる、運動会のようなバイキングは大盛り上がりだったのでした。

 子豚ちゃんたちは無邪気で人懐っこくて、
「パイナップルの甘い良い匂いがする~♪」と、芋パイナップル怪獣さんの背中や胴にくっついて甘えてきます。

 芋の顔は丸くておもしろい顔だし、怪獣の尻尾は子豚ちゃんたちの滑り台になっていて順番待ちの列ができています。
 子豚ちゃんの小さな幼い手が触れるたび、芋パイナップル怪獣さんは優しい気持ちになってゆきました。

 以前の怖い妖怪の姿より、ちょっとマヌケなこの体は悪くないかもしれないと、芋パイナップル怪獣さんは思い始めました。

 家中、走り回ったり、転んだり、笑ったり、騒がしい子豚のお母さんの家は、芋パイナップル怪獣さんにとって居心地の良い空間でした。

 皆で楽しく食事した後、帰る時、芋パイナップル怪獣さんは名残惜しそうでした。

「また遊びに来るだよ!隣は空き家だし、引っ越してくれば?」
 屈託のない豚のお母さんの明るい笑顔は、芋パイナップル怪獣さんの心をまた明るく照らしてくれるのでした。

 それから、芋パイナップル怪獣さんは、時々訪ねて来ては、豚の子供たちと一緒に畑で野菜や果物を育てたり、用心棒として豚の家族を守り、優しく穏やかな妖怪になったのでした。
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