異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓

文字の大きさ
上 下
41 / 103

ジェリーの実は美味しいクマ!

しおりを挟む
 アーシャさんが双子の赤ちゃん虎を産んだ。

 ベビーベッドに並ぶ生まれたての赤ちゃん虎は、まだ目も開けていない。
 小さくて、柔らかそうで、守ってあげたくなるような愛らしさの塊だった。

 レオンさんは目尻が下がりっぱなしで、とっても嬉しそう。おむつを替えるのも手慣れたものだ。

 アーシャさんが微笑んで「抱いてみる?」と言ってくれたけど、華奢な赤ちゃんを落としでもしたら大変なので、数日経ってから抱かせてくださいとお願いした。

 ラブラブのアーシャさんとレオンさんの部屋を出てから、カイルに聞いてみる。

「アーシャさんの好きなものを教えてくれない? 産後の体力が回復しそうなものとか」
「ママはジェリーの実が好きだよ。甘酸っぱくてとても美味しいんだ。高山植物だからこのあたりじゃ見かけないけど、栄養もあるし、体力も回復するって言われてる」
「ジェリーの実、アーシャさんに摘んできてあげたいなぁ…」
「ありがとう、ママも喜ぶよ。早速、探しに行こう!」

 私とカイルは空を飛び、高山地帯の上空でジェリーの赤い実を探しはじめた。
「カイル! あの山、赤い実がたくさんなってる!」
「ジェリーの実だ!」

 一か所に、こんなに沢山なってるなんて!
 赤くて丸いルビーのように美しい実が、キラキラと輝きながら地面を覆いつくすように、たわわに実っている。
「すご~い! 綺麗~!」
 ジェリーの実に見とれながら、収穫してはマジックバッグに収納していると、

「何やってるクマ!」
 3mくらいありそうな茶色い熊さんに怒られた。

「ジェリーの実を収穫しています!」と答えると、
「そのジェリーの実は、食べ頃になるまでずっと待ってたんだクマ! やっと熟れて美味しそうになってきたから今日あたり食べようと思ってたんだクマ~!」
 なんだかとてもご立腹だ。

「こんなにたくさんあるんだから、少しくらい分けてくれてもいいじゃないですか~」
 こんなでかい熊に口答えする命知らずの私。

「ダメだクマ! ジェリーの実はケーキのトッピングに使うし、ジャムも大量に作るし、ジェリージュースもジェリー酒も作るし、タルトやゼリーやクッキーにも入れる予定なのだクマ!」
 料理男子か!

「どうしてもジェリーの実を分けてほしいなら、代わりに好物の魚を獲ってくるクマ~!」

 料理男子クマに指を指された瞬間、私は深海へ瞬間移動させられていた!
 真っ暗な深海で、迫力満点の光る眼がたくさん集まってきて、すぐに囲まれる。
 深海魚の顔って、怖いよ~!


 その頃、カイルはどうしていたかというと。

「ルカをどこに飛ばしたんだ!場所を教えろ!」
 クマを睨みつけるカイル。

 しかし、クマはポッと頬を赤らめた。
「怒った顔も、素敵♪」
 急に内股になり、もじもじし始める。

「はぁ?」
 意外な反応にドン引きのカイル。

「山奥にいると、こんなイケメンにはなかなか出会えないクマ~!」
 とハートマークを飛ばしながら叫んで、ぎゅっと抱きついてくるクマ。

「タイプ、タイプ♪ 好き♪ フォーリンラブ♪」
 頬ずりされ、キスの嵐にカイルは滝汗の冷や汗を流した。

「ぼくは…女子が好き…」
 ノーマル宣言してみたが、

「大丈夫♪ 私、女子よ♪」
 クマは、カイルの美貌に見とれながらウィンクした。
 筋肉粒々のシックスパックなので男にしか見えなかった、とは言えないカイル。立派な上腕二頭筋が体に食い込んでくる。

「ダメだ!ぼくはルカが好きなんだよ!」
 カイルは子虎に変身した。
「ぼくの本当の姿は虎なんだ!」
 クマが諦めてくれるかと思ったが、

「なんて可愛いの! 動くヌイグルミみたいじゃないの~♪ ふわふわもこもこ~♪」
 さらに気に入られ、カイルの美貌は裏目に出る一方なのだった。


 そこへ、深海からルカが戻ってきた。

「ルカッ!」
 クマの腕をすり抜け、ルカを抱きしめるカイル。

「ぼくはルカだけだからね!」
「?」
 鈍感なルカには、クマとカイルの間にあったことなど想像も出来ない。

 大型の深海魚に囲まれていたルカを助けたのは、ニャロンの呪いを解いた植物だった。
 植物のツルには、20匹の深海魚が捕らえられ、獲れたてピチピチのお魚さんが跳ねている。

「魚っ! 美味しそうな深海魚だクマ~♪」
 熊は大喜びで魚に飛びつこうとしたが、植物はそう簡単には魚をくれない。魚は植物の好物なのだ。

「わかったクマ! 約束通り、ジェリーの実を好きなだけ持っていくクマ! おまけでジェリーの苗も付けるクマ~!」
 了解した植物は、クマと仲良く一緒に魚を食べ始めた。
 植物は熊と気が合うらしく、ジェリーの実も気に入ったので、しばらくここで暮らすらしい。

 アーシャさんとレオンさんは、ジェリーの実をとても喜んでくれた。
 レオンさんはジェリーの苗に、魔法で高山地帯のようなヒンヤリした空気を纏わせ、見事なジェリー畑を作ったのだった。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです

yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~ 旧タイトルに、もどしました。 日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。 まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。 劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。 日々の衣食住にも困る。 幸せ?生まれてこのかた一度もない。 ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・ 目覚めると、真っ白な世界。 目の前には神々しい人。 地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・ 短編→長編に変更しました。 R4.6.20 完結しました。 長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

処理中です...