異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓

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ずっと傍にいてね

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 ニャロンさんが帰宅すると、奥さんは信じられないという表情をして固まってしまった。

「帰ってきたよ。遅くなって、ごめんニャ」
 ニャロンさんは申し訳なさそうに呟いた。

 夢中でニャロンさんに駆け寄り、抱きしめた奥さんは、
「遅すぎるわよ! どれだけ心配したと思ってるの! よかった、よかった…」と言って泣き崩れた。

「「「パパ?」」」
「ミーナ、ミリー、ミロン! わしより大きくなってるじゃニャいか!」
 猫族は1年で成人するらしい。

「「「パパ~~ッ!!!」」」
 子供たちと奥さんに抱きしめられて、ニャロンさんはこれ以上ないほど幸せそうだ。

 私とカイルとリスさんは、親子水入らずを楽しんでもらおうと、そっとその場を離れた。

「今夜は、ニャロンさん生還を祝う会をしようと思っているんです」
 リスさんはこれから島長さんに相談に行くつもりらしい。

「ルカさんとカイルさんも是非、参加してくださいね。ニャロンさんを救ってくれた恩人なのですから」
「カイルは凄かったわ」
「そんな…僕なんて…」
 褒められて照れるシャイなカイル。

 その時、大きなサイレンの音が鳴り響いた。
「家事だ~~~っ! じゃなくて、火事だ~~~っ!!!」

「えっ? 家事?」
「火事だよ!」
 カイルが指さす方向を見ると、大きな火柱と煙があがっている。

 どうやら、5mの獲物を捕まえた猟師さんが、獲物を丸焼きにしようとして炎の量を多くし過ぎたらしい。
 その炎が民家に飛び移ってしまった!

 この島の島民は魔法をあまり使えないのだろうか。バケツリレーをしている。

 私とカイルは海上に転移し、魔法で海水を吸い上げ直径2kmの巨大な海水玉を作った。

「「せ~~のぉっ、行け~~~っ!!」」
 海水玉を火事現場全体に命中させると、一瞬で消火できた。

 皆、何が起こったんだ?みたいな顔をして、ポカ~ンとしている。
 そして、状況を把握すると、わぁっ!と歓声が上がった。

「なんでそんなことが出来るの?」
「すご~~い!!」
「ありがと~~っ!!」
 皆、大喜びしてくれた。

「おふたりさん! 一緒にこの獲物を食べてくださいよ! もちろん皆さんも!」
 火元の猟師さんは、巨大な丸焼きをごちそうしてくれるらしい。みんな大喜びだ。
 カイルが魔法で燃えた家を修復したので、もう怒っている人はいない。

「猟師さん、食べやすいようにカットしてもいいですか?」
「獲物を切ってくれるのかい? たすかるよ!」

 了解を得たので、獲物を空中に浮かべ、風の刀で一瞬で10㎝四方の大きさの肉片にカットし、マジックバッグから出した大皿に山のように盛った。まだ火がしっかり通ってなかったのか、レアなお肉部分が多い。

「なんだ?マジックか?大きな肉の塊が一瞬で小さくカットされたぞ!」
「焼肉大会だ!」
「お嬢ちゃん、ついでに、この果物と野菜もカットしてくれないか?」
 島の動物が、森の畑で収穫した野菜を見せる。

「いいわよ! こっちに投げて!」
 次々と飛んでくる野菜や果物を風の刀でカットしては皿に盛り、彼らに渡した。

「「「かんぱ~~い!!」」」
 さっきまで火事で大騒ぎだったのが嘘みたいな、和やかなバーベキュー大会が始まった。
 夜はニャロンさんの生還を祝う会があるし、この島の動物たちはお祭り好きなのかな? あちこちで踊りだしてるし。

「まぁ、おひとつ」
「おっとっと」
 果実ジュースをコップに注ぎ合う私とカイル。
 魔力を使った後の一杯は格別に美味しい。
 
 カイルの穏やかな横顔を見てると、崖から無事に戻ってきてくれて、生きていてくれてよかったと、愛しい思いが蘇ってきてしまう。

 カイルの腕をぎゅっと抱きしめた。まだ、カイルを失うかと思ったショックから立ち直れていない。

 人の姿のカイルに私からベタベタ触れることはあまり無かったので、カイルは驚いている。

「どうしたの? 今日は甘えたなんだね。うれしいけど…」
 カイルが私の頭の上に、自分の頭をそっと乗せて寄り添う。

「カイル、もう一人で危険なことはしないでね。私も一緒に協力するから。ずっと、私の傍にいてね。」
 抱きしめる腕が震え、涙がぽろりとこぼれた。

「泣かないで…。わかったよ。ずっとルカの傍にいるから。心配しないで」
 カイルは私の涙を親指でやさしく拭い、おでこにキスを落とした。

 カイルの優しさが心に沁みて、もっと泣けてくるのだった。
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