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二章 共に逝きる

第十八話 紫の花

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 ~屋敷 中庭~

 中庭中央の木の下に建てられた真っ白なテラスに居た二人の元へサンドイッチなどの軽食を持ったラルカがやってきた

ラルカ「すいません、お待たせしました」

エトアル「あれ、ラルカちゃん一人なの?」

ラルカ「お兄様とお姉様は厨房に他の料理を取りに向かわれました。【すぐに行く】との事です」

リーベリア「じゃあ生け垣の裏に居るのってフィロさん?」

フシール「残念!フシールでした~ラルカちゃんコレおニ人に持って行ってもらえる?」

 ラルカにティーポットを渡すとフシールも席についた

リーベリア「フシールちゃんが持ってきたのそれだけ?」

フシール「うん」

リーベリア「もしかして残りの物全部フィロさんが持ってくるの?」

フシール「そうだよ~押し付けてきた」

ラルカ「結構な量ありますよね…」

エトアル「フィロさんなら大丈夫でしょ」

ラルカ「この机の上に全部乗りますかね?」

フシール「乗らなかったらリーベリアさんにテーブル出してもらお~」

リーベリア「別に構わないけど三分で食べ切らないと全部消えるからね」

エトアル「間に合わないでしょ…」

リーベリア「それにしても…中庭久々に来たけど随分と変わったね」

エトアル「あ~確かに、あんな木とか生えてたっけ?」

 ふとフシールの方を見たリーベリアが後ろの木を見て呟いた

フシール「綺麗な花でしょ?ラルカちゃんがこれが良いって言ったんだよね」

ラルカ「栴檀の花です」

リーベリア「センダン…?」

フィロ「こっちには咲いてねぇよなw俺の故郷には咲いてたんだけど」

フシール「うげぇ~…もう来たの?その量よく持ってこれたね」

フィロ「この量なのはフシールのせいだろうが」

ラルカ「あはは…フィロ兄様に苗木をもらって育ててたんですよね」

フィロ「紫の花が良いって言われたけどこれが良いってのは無いみたいでな、鴉達にいくつか持って来させたら梅檀が良いって言ったんだよ」

 木に寄りかかりながら溜息を溢した

フシール「今更だけどラルカちゃんなんでコレにしたの?」

ラルカ「なんで…ん~なんで…ですかね?なんかこれが良い。って思ったんですよね」

リーベリア「でもこっちに無いなら大変だったんじゃない?」

フィロ「取り寄せるのは簡単でしたよ。それにしてももう開花の時期なのか」

エトアル「把握してないんだね」

フィロ「ラルカの所有物ですからね、俺は極力関わってません」

ラルカ「まぁ…皆さん揃いましたし食事にしましょう」

 中庭を風が通り過ぎる、屋敷沿いにも色んな植物が植えられているが中庭を包むスモークツリーや藤の微かな香りは五人の居る中央には届かず、梅槽の甘い香りが彼等を閉じ込める様だった

フシール「まだ少し肌寒いね」

フィロ「故郷に帰ればこの季節は暖かいだろ」

フシール「ジメジメしてるから嫌だ!」

リーベリア「俺達は動いてたからあったまってるけどね」

フシール「そっか、ラルカちゃんと森に行ってたんだっけ?良いなぁたまには私も参加したい…」

エトアル「遠慮するわね」

フシール「ひど~い!」

フィロ「でもまぁ結構動けるようにはなってきたな」

ラルカ「避けられるようになっただけで攻撃は当てられませんけどね…」

フィロ「ラルカの戦い方は攻撃するっていうより罠にかかるのを待つの方だからな」

フシール「まだ生傷が絶えないね~今日はどうだった?」

 血が止まったばかりのラルカの頬の傷跡に触れて訪ねながら微笑んだ

ラルカ「避ける事に徹底しても四割の攻撃には当たってしまいましたね…その上で誘導したりしてると致命傷を食らう場合もあります」

フシール「まだまだだね~」

リーベリア「でも最後のトラップは分かりにくかったよ?」

エトアル「避けれてたけどあれ触れてたらどうなってたの?」

ラルカ「足が絡められて宙吊りになったあとに刃が落ちてきますね」

リーベリア「そんなの仕掛けてたの!?殺しに来てんじゃん…」

フィロ「ちゃんと全部回収してきたか?」

ラルカ「はい。次からはもう少し上手く隠さないとですね…」

フィロ「足元は相手の歩幅とか動きとか完璧に把握しないと難しいよ」

エトアル「でも人形を操るのも上手くなったよね」

ラルカ「全部壊した人には言われたくないですね…」

リーベリア「まだ一度に動かせるのは五体くらい?」

ラルカ「…そう…ですね」

リーベリア「取り敢えずこの後また殺り合ってみる?」

エトアル「夜になる前に帰れればいくらでも付き合ってあげるわよ?」

ラルカ「いえ…少し一人になりたいので、また後日お手合わせ願います。私は先に行きますね」

 そう呟くとラルカは立ち上がりその場を離れた

フシール「また森に行ったのかな?」

フィロ「最近良く行ってるからな」

エトアル「森か…お二人はラルカちゃんをこの森から出さない気なの?」

リーベリア「確かに、ずっと閉じ込めとく気?」

フィロ「別に閉じ込めてる訳じゃねぇよ」

フシール「まぁ…二人の想像通り今のラルカちゃんは籠の中の鳥だよw私達の許可無しじゃどうせこの森を出ない」

フィロ「自由にして良いとは言ってるけどあの子は自由の意味がわかんねぇだろ」

エトアル「自由ねぇ…でもあの子が鳥なのだとしたらそれこそ羽をもがれた哀れな鳥でしょ?」

フィロ「そりゃあね?今はまだラルカに翼は必要ないさ」

リーベリア「独占欲…なのかな?…あれ?」

フシール「どうしたの?」

 急にリーベリアが空を見て声を上げた。全員が上を見上げるとフワリと大きな白い羽根が地に落ち、日差しに照らされ煌めいた

フシール「綺麗な羽根…」

エトアル「でもなんの鳥?屋敷の側には貴方達の鴉以外近づかないでしょ?」

フィロ「白い羽根ねぇ」

リーベリア「フィロさんなんか知ってるの?」

フィロ「いや?白色は染まりやすそうだと思っただけだよ」

エトアル「へ~…でも真っ白な羽根か、ラルカちゃんの翼なのかな?」

リーベリア「エトちゃん…ラルカちゃんは人間だよ?w」

エトアル「そうだね」

フィロ「取り敢えず俺は屋敷に戻るからな。この空間は得意じゃない」

リーベリア「フィロさんはこの香り苦手なの?」

フィロ「甘ったるいからな...それに毒々しい色で溢れかえった場所に長居はしたくない」

 屋敷に戻るフィロ…残された三人はもう一度席につき束の間の休息を楽しんだ。 誰かが仕組んだ終わらない日常はいずれ滅ぶ、そのトリガーを引くのはいつだって人間なのだろう。そこに本人達の意思など関係無いのだから
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