藍色の空を越えて

Mari

文字の大きさ
上 下
25 / 25
最終章

〝今〟を生きる

しおりを挟む
街の雑踏、車の走る音、近代的な建物…
目を開けるとそこは元の時代の土手だった。


「何…?どういうこと?私たち戻ってこれたの?」
美咲の頭の中はパニックらしい。
「みたいだな」
二度目のじいさんとの不思議体験に、俺はもうすっかり慣れたようだ。
非現実的過ぎて、もはや笑いが出る。


「あ…」
俺はここでようやく大事なことに気付いた。

「お前、とりあえず会社に電話しとけよ」
「…っ!」
「そろそろクビになるぞ」
ギャーっと青ざめる美咲を横目に、俺は一度深呼吸する。

〝人生のやり直しは、これじゃダメだと気付いた瞬間から始まっている〟

いつかあのじいさんが言っていた言葉。


俺の人生のやり直しはここから始まった。
この人生、楽しまなきゃ損だろ。

「優ちゃん…」
「あぁ?」
「俺はお前が好きだ!って、もう一回言って?」


……っ!

「お前はバカか!」
「はぁっ?」
「絶対言わねえ!」
「なんでよ!」
「イーヤーだ!」

んな、何回も言えるか!

「優ちゃん、耳まで真っ赤」
「うっせ」
「優ちゃん、好きだよ」

美咲の言葉に思わず振り向く。

「大好き!」
「何回も言うな、恥ずかしい」
「優ちゃんも言って?」
「言うか、アホ!」


マジやべえ。
恥ずかしすぎるっ!


「なんか、随分イチャついてんなあ」

その声に俺と美咲の動きがピタリと止まる…
恐る恐る後ろを振り返ると…

居るーっ!
やっぱり居るーっ!

聞かれたくない奴らに聞かれた!


「お前が好きだ!ってついに言ったんだね優希」
「やるじゃーん」
奈々と隆也がそう言ってニタニタする…


あれ…?
なんか…こいつら、雰囲気が…

「ねぇ、もしかして二人、既に付き合ってたりして」
美咲が爆弾を飛ばす。

こいつは…よくもまぁ、こうスパンと言葉に出来るもんだ…

「まだ付き合ってねえし」
隆也が珍しく墓穴を掘る。
「まだ?」
美咲がその墓穴に水を差す。
真っ赤になって俯く奈々。

こりゃ、俺たちが〝あっち〟に行ってる間に何かあったな?
なんだか、隆康と奈都の想いが報われたような気がして妙に嬉しくなった。


「ていうか、お前らどこ行ってたんだよ」
隆也が恥ずかしさからか、たまらず話を反らす。

どこ行ってた…か。


「教えなーい」
そう言って笑う美咲。

俺、やっぱこいつら好きだな。


なぁ、じいさん、あんたがどこの誰だか知らねえけど、美咲が言ったことが確かなら、もしかして未来の俺なのか?
なんて、思ったりするのは、こんな不思議体験をした今だからなのだろうか。


あんたがずっと俺に言ってたのは、〝今を真っ直ぐ生きろ〟ってことに全部繋がってんだよな?

生まれた時から持って生まれてきたであろう運命や因縁。
でもそれは、その時その時で自分の魂が作り上げてきたもんだ。
だったら、運命を変えることも因縁を断ち切ることが出来るのも自分自身でしかない。
どう動くかで変わってくるものがあるんだ。

人生とは〝今〟をどう生きるかだ。


どこに行ってたか教えろとしつこい隆也と奈々に、俺は笑って答える。

「ちょっとな、藍色の空を越えてきた」



空を見上げると、藍色の空が深く深くその色を染め上げていた。







しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

教え子に手を出した塾講師の話

神谷 愛
恋愛
バイトしている塾に通い始めた女生徒の担任になった私は授業をし、その中で一線を越えてしまう話

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

10 sweet wedding

国樹田 樹
恋愛
『十年後もお互い独身だったら、結婚しよう』 そんな、どこかのドラマで見た様な約束をした私達。 けれど十年後の今日、私は彼の妻になった。 ……そんな二人の、式後のお話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

処理中です...