藍色の空を越えて

Mari

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第六章

祝言

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翌日。
とうとうその日は咲と隆康の祝言の朝。

白無垢に身を包まれた咲が鏡の前で神妙な面持ちをしていると、奈都が声をかける。

「咲、入っても大丈夫?」
「…うん」

部屋に入ると、奈都は静かに襖を閉めた。


「咲…、綺麗…」
「……」
咲は黙ったまま、笑うことさえない。
その様子に奈都は心が痛かった。

もともと咲は優太朗と恋仲で、それを知っていながら、両親も自分たちも、どうすることも出来ないできたのだから。
昨夜の優太朗の言葉を思い出し、あれほどまでに咲を愛しているのに、なぜこうも運命はうまくいかないのかと、自分と重ね合わせて辛かったのだ。


「咲…私はあなたに幸せになってほしい」
美咲が見上げると、涙目の奈都が言葉を続ける。

「あなたの幸せは、あなた自身が決めなきゃいけないのかもしれない」
「…奈都」
「そんな当たり前のことを、私たちは忘れてた…」

必死に何かを伝えようとする奈都。

その時…
「咲、時間よ…」
母が襖の向こうから声を掛ける。
咲は無言のまま立ち上がり、奈都に「ありがとう」とだけ伝えると部屋の襖を開けた。


奈都はその場に膝をつく。
人生は巻き戻すことなんて出来ない…
優太朗の言った通り、今の自分たちは今しか生きられないのに…
奈都の目から一粒涙が零れ落ちて、畳に染み込んでいった。



白と赤の布で部屋の壁は覆われ、色とりどりの花がところどころに飾られている。
決して豪華とは言えないが、昨夜の宴とは一転、厳かな雰囲気が漂っていた。

太鼓や笛の音が咲と隆康を迎える。
二人の家族や、集まった村人が皆心を踊らせるように見つめていた。
隆康の後に続き、咲が隣に腰を下ろすと、神主が結婚の儀を進めていく。


〝この運命を辿るのは咲。私じゃない。だけど、咲は優太朗のことが好きなのに…私だって…優ちゃんのことしか考えられないのに…〟
祝言の途中、美咲はずっと考え込んでいた。

盃が酌み交わされるその時…


「咲、本当にこれで良いのか」
そう呟いたのは隆康だった。

「優太朗殿は、今が変わらなければ後の世でも同じことを繰り返すと以前言っておられた。その通りかもしれぬ…」
「…っ」

隣を見上げると、隆康が力強い眼差しで微笑んでいる。

〝二度と同じことを繰り返したくない〟
それは隆康も同じ気持ちだった。


「隆康様、私のわがままを聞いて頂けますか?」
「…もちろんだ」

二人はお互いに見つめ合い、同時に微笑む。





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